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「ルーヴシエンヌの雪」

アルフレッド・シスレー (1874年)

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 降り積もった雪を踏みしめる、ザクッザクッという音だけが響き渡ります。舞い散る小雪があたりを白一色に覆い尽くしていくにつれて、他のすべての音は白い雪に吸い込まれていくようです。

 アルフレッド・シスレー(1839-1899年)は、雪の持つさまざまな表情に興味を寄せ、異なるタッチで微妙に描き分けた画家でした。この作品の中でも、木々を包み込む雪、屋根にこんもりと積もった雪、そして人によって踏み固められていく雪…と、それぞれに色調も雰囲気も変えて表現しています。
 西洋絵画の場合、雪をテーマに描き続けた画家は珍しいように思います。シスレーが雪に魅せられたきっかけが何かはわかりませんが、目の前に広がる風景を静かに見つめ、ありのままの自然をひたすら描いたシスレーらしい熱意を感じさせます。

 そして、雪の中の傘をさした人物といえば、浮世絵の世界を連想します。19世紀末から20世紀初頭にかけて、日本の開国とともに日本の美術品が大量に流出し、ジャポニスム現象が起こりました。印象派の画家たちもまた日本の美術に興味を示し、特に浮世絵は大変な人気で、マネ、モネ、ホイッスラー、ドガ、ゴッホら多くの画家が、浮世絵に影響を受けた作品を残しています。シスレーもまた、浮世絵に接する機会は多かったに違いありません。
 しかし、シスレーはあくまでも、この人物を画面の奥行きを効果的に引き立てるために描き込んでいるのでしょう。それが、自然光のもとにあるものを、目に映ったままに描こうという印象派の理念に深く共感し、生涯それを実践し続けたシスレーらしさのような気がするのです。

 結局、生前にはほとんど絵が売れず、貧窮のうちに病を得て世を去ったシスレーでしたが、その作品には穏やかで優しい画家の眼差しがすみずみにまで注がれています。下描きをほとんどせず、カンバスに直接絵の具をのせていく手法で描き続けたというシスレーは、おそらく自らの皮膚感覚を一番大切にした画家だったのでしょう。モネやルノワールのような強いインパクトは残しませんでしたが、ある意味では最も印象派の画家らしい存在だったと言えるのです。

★★★★★★★
ワシントン、 フィリップス・コレクション 蔵

 <このコメントを書くにあたって参考にさせていただいた書籍>
  ◎西洋美術館
       小学館 (1999-12-10出版)
  ◎印象派
       アンリ‐アレクシス・バーシュ著、桑名麻理訳  講談社 (1995-10-20出版)
  ◎印象派美術館
       島田紀夫著  小学館 (2004-12出版)
  ◎西洋美術史
       高階秀爾監修  美術出版社 (2002-12-10出版)
  ◎西洋絵画史who’s who
       美術出版社 (1996-05出版)



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