これは、ロセッティにしては珍しく、前景、中景、後景がはっきりしていて、奥行きのある作品です。しかも、前景の2人と中景の2人で微妙なバランスのハート型を形づくっていて、きわめてロセッティ的、装飾的とも言えるのです。
この4人と後景のバランスは、何やらとても違和感があるのですが、これは20年余り前に前景だけを描いて中断していたカンヴァスを再利用したためと言われています。そのためか、鑑賞者の視点がどこをとらえてよいか分からないこの不思議な絵の後、ロセッティは二度と奥行きのある空間を画面に取り入れていません。平面的な構図・・・これがやはりロセッティの真骨頂だったのでしょう。
ところで、前景の女性のモデルは、左がマリー・スティルマン、右がアレクサ・ワイルディングであると言われていますが、どうしてロセッティの描く女の人は、みな同じ顔をしているのか、とふと不思議な気分になります。数人の、同じ女性ばかりをモデルにしているせいもあるのでしょうが、私などにはどうも見分けにくく、全員が同じ人のように見えてしまいます。ロセッティ好みの顔がだいたい決まっているせいなのか、それともロセッティにはどの顔も皆同じに見えるのか・・・。ともかく、以前は、どの女性も英国の故ダイアナ妃に見えていたのですが、今はジュリア・ロバーツの方が似てるかも知れない・・・と思ったりしています。
また、装飾品に関しても、気に入ると、同じものを繰り返し使うことが多いようで、マリー・スティルマンがつけているオウム貝のような形の髪飾りは、「モンナ・ヴァンナ」などの作品で何回もモデルに付けさせています。このようなところを見ると、ふとロセッティはけっこう執着しやすい性格なのかも知れない・・・などと思ったりもするのです。
★★★★★★★
マンチェスター市立美術館蔵