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「アウロラ」

グエルチーノ (1621年)

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 2頭立ての凱旋車を操り、天空を駆けるのはアウロラ。ギリシャ神話の曙の女神です。
 ホメロスによって「薔薇色の指をもつ」と歌われた彼女は、道すがら、花を撒き散らしながら進みます。傍らでアウロラの行方を見守る髭面の老人はティトノス。彼女の年老いた夫です。アウロラは毎朝、ティトノスが眠っている間に起き出し、姉妹である太陽神ヘリオスを天空へと先導するのです。
 夜の雲は払われ、地平はすでに明るく輝いています。そしてアウロラの前方には一群の乙女たちの姿が見えます。彼女たちは、季節の女神ホラたちですが、じつはヘリオスの娘たちであるとも言われています。

 それにしても、このみごとな仰視遠近法で描き出されたアウロラの一行の迫力ならば、確かに夜の闇など蹴散らしてしまいそうです。豊かな色調で彩られた風景と人物たちの競演は、単なる天井画の枠組みを超えて、実際の建物へと広がっていきます。ここにはまさに、ローマ盛期バロックのイリュージョニスティックな天井装飾の先駆的表現が生き生きと実現されているのです。

 このみごとな天井画の主題は、新しい時代の曙の象徴と言われています。1621年、ボローニャ出身の枢機卿ルドヴィージが教皇グレゴリウス15世となったのを機に、グエルチーノがローマに招かれて制作したものです。この曙は中央部分、その下には夜と昼の寓意画も描かれました。同時期、教皇のライバルだった枢機卿シピオーネ・ボルゲーゼの注文によって、グイド・レーニも同主題の作品を委託されたことで、競争になったことでも知られています。どちらが好きか…は、ご覧になる方の好みなのですが、グエルチーノの、建物と一体となった圧倒的な空間表現、530×1030㎝の大画面に、見上げる私たちはやはり言葉もなく、この躍動的な神話世界に浸ってしまうのです。
 建物部分は専門家のアゴスティーノ・タッシが描いていますが、テンペラ画独特の澄明な色彩と光あふれるみずみずしい表現は、途切れることなく建物を伝って、私たちのほうに流れ込んできます。17世紀末から18世紀はじめのフランスで活躍した美術批評家ロジェ・ド・ピールによれば、歴史画を構成する四つの要素である構図、素描、彩色、感情表現の中で、グエルチーノの構図はルーベンスと並んで最も優れたものとされています。確かに、この作品が、後にローマで活躍するコルトーナらの盛期バロックに与えた影響はあまりにも大きいものだったことでしょう。人物も馬車もクピドたちも、背後に広がる劇的な空のもと、区画内に閉じ込められることなく、鑑賞する者の頭上を勢いよく行き過ぎようとしています。

 グエルチーノは、17世紀ボローニャ派の代表的な画家でした。若くしてルドヴィコ・カラッチの強い影響を受けましたが、のちにローマに滞在したおり、ローマの古典主義的絵画に決定的な影響を受けて画風を大きく変えることになります。しかし、この作品はその前….新鮮で大胆な絵画表現を目指していたころの代表作です。こののち、ラファエロの再来と言われボローニャ派の巨匠であったレーニが亡くなったあと、ボローニャに移り、多数の弟子や共同制作者の協力を得て多くの注文をこなし、ボローニャ画壇の第一人者として活躍するのです。
 「アウロラ」は英語読みすればオーロラ。夜がほのぼのと明け始めるころ、天を彩る美しいオーロラのように、まさに曙の時を生きる自らを投影したようなグエルチーノ30歳の、天井装飾の先駆けとなる大作です。

★★★★★★★
ローマ、 カジーノ・ルドヴィージ 蔵



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