見れば見るほど悲しくなってしまう絵です。ほんの少しの救いもなぐさめも入り込む余地のない、疲れきった世界です。
美しい踊り子の姿だけでなく、こうした世界もドガの内にあるのだということが、あらためてわかります。
貧しい労働者階級の女性が、タイトルのアプサンのグラスを前にしてボンヤリとすわっています。そして、その隣りには酔いが回った赤い目を据えて、おそらくは外の通りを行く人々を眺めて、これもうらぶれた雰囲気の男がすわっています。彼らには、希望の明日・・・なんて、見えていないのでしょう。
しかし当時、こうした現実むき出しの主題は恥ずべきものと見なされていたらしく、「忌まわしい」との非難を浴びたそうです。
たしかに、ちょっと目をそらしたくなる作品で、美しいとは言い難いのですが、よく見ると、その微妙なバランスの妙に驚かされます。
人物2人が極端に右端に寄っていますが、配置が右上りのため、左側に重みがかかり、危うげな均衡が保たれているのです。そして、この不安定寸前のバランスが、作品に当たり前でない動きを与え、惹きつけられてしまうのです。
★★★★★★★
パリ、 オルセー美術館蔵