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「アポロとダフネ」

アントニオ・ポライウォーロ (1480年ころ)

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 アポロが追いついた瞬間、ダフネの両腕はすでに青々と葉を繁らせ、みごとな枝に変わっています。 この作品は、古代ローマの詩人オウィディウスの『変身物語』を典拠としたもので、古代の樹木崇拝を思わせる格調高い美しい作品です。

 アポロに自分の弓の腕を嘲笑されたクピドは、意地悪で気まぐれな仕返しを図ります。この憎らしい若い神には恋をかきたてる黄金の矢を、そして河の神ペネイオスの娘で美しいニンフのダフネには恋を消す鉛の矢を、それぞれ射放ったのです。このため、ダフネは恋におちて追って来るアポロから走って逃げましたが、力尽きて、父なる河神に「私の姿を変えて」と助けを求めます。すると、腕から枝が、足からは根が生え、ダフネはみごとな月桂樹に姿を変えるのです。この主題は、「愛」に対する「純潔」の勝利を象徴していると言われています。

 15世紀イタリアでは、美術はこれまでにないほどに世俗化の傾向を強めました。そんな中で、こうした神話主題に基づく様々な表現も生まれたのです。そして、この時期、それまで社会的に低い地位に甘んじていた職人たちは、表現にいっそうの工夫と洗練を加え、芸術家としての地位を確立していったのです。また、注文の増加もあり、大きな工房も出来はじめ、ポライウォーロも弟とともに大規模な工房をかまえて活躍していました。
 アントニオの弟ピエロはカスターニョの弟子で専業の画家でしたが、兄のアントニオは本来は金工家で、彫刻、絵画、版画と広範な分野で活躍しました。画家としての腕もアントニオのほうが格段に優れていたと言われますが、兄弟はとてもよく協力し合って、工房を盛り立てていきました。
 アントニオは人体解剖を手がけた最初の芸術家だと言われていますが、たしかにその人体表現は激しさと野性的なエネルギーにあふれていました。この作品においても、画家は古代の神話を当時の若者の恋物語に仕立て、二人の柔らかい身のこなしは生き生きと、楽しげでさえあります。そして、背後に広がるのどかな風景は、新しい時代の幕開けの息吹を清新に感じさせてくれるのです。

★★★★★★★
ロンドン、 ナショナルギャラリー 蔵



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