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「アポロンの馬車」

オディロン・ルドン (1910年ころ)

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 オリュンポス12神の一人で古典期ギリシア精神の権化とも言われるアポロンは、日ごと凱旋車で空を駆け巡る太陽神としても親しまれています。
 アポロンの馬車のテーマは、ルドンを魅了し続けました。殊に、晩年のルドンの非常に重要な主題だったと言えます。多くの作例がありますが、この作品は特に凱旋車もアポロンも霧のように消え去り、ただただ四頭の馬のみごとな躍動が描かれているのです。さらに、明るい色彩と輝く光に満ちた空の美しさは、私たちを夢の世界に連れ去ってしまうのです。

 オディロン・ルドン(1840-1916年)は1878年、38歳のときにドラクロワの描いたルーヴル美術館の天井画「アポロンの凱旋」を見て、いたく感動しています。「暗闇に対する光の勝利であり、夜の悲しみのあとに陽光の喜びがあふれている」と書いたほどでした。
 それは、寂しく孤独だった彼の前半生が終わりを告げる一つのきっかけだったような気もします。ちょうど、その2年後には妻カミーユと結婚し、家庭人としての幸せを知るようになりますし、それに伴って若い画家たち――ドニ、ボナール、ヴュイヤールら――との交流も生まれます。それは、たった一人で精神的な美を追求し続けていたルドンの内的世界に、光と躍動をもたらすものだったに違いありません。ルドンの画面はどんどん明るくなり、この馬たちのような喜びに充ち満ちてゆくのです。

 ルドンが選んだ主題は、もしかすると結局、古風で特段の創造性を感じさせるものではなかったかもしれません。しかし、彼の作品はあくまでも画家の内的世界であり続けたのです。ルドンは自身の芸術を、「目に見えるものの論理を、見えないもののために可能な限り利用すること」と述べています。彼は目に見える世界を描くことで、見えないけれど確かに存在する何かを見つめ続けていたのでしょう。飛翔する馬たちも、解き放たれた喜びを謳歌するルドン自身なのかもしれません。

★★★★★★★
パリ、 オルセー美術館 蔵

 <このコメントを書くにあたって参考にさせていただいた書籍>
  ◎ルドン・ボナール―色彩の魔術師
       マウラ・ボフィット他著、石原宏・池上公平訳  学習研究社 (1992-06-20出版)
  ◎西洋美術館
       小学館 (1999-12-10出版)
  ◎印象派美術館
       島田紀夫著  小学館 (2004-12出版)
  ◎西洋美術史
       高階秀爾監修  美術出版社 (2002-12-10出版)
  ◎西洋絵画史who’s who
       美術出版社 (1996-05出版)

 



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