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「アレクサンドロス大王の戦い」

アルブレヒト・アルトドルファー (1529年)

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 この作品を見たとき、誰もが同じ感想を抱くのではないでしょうか。本当にこれは、一人の画家が描いたものだろうか….と。

 紀元前4世紀後半ころになると、大国ペルシアも次第に弱体化し、その一方、マケドニアが強大なちからを持つようになります。そのマケドニアのアレクサンドロス大王は、333年にペルシアのダレイオス三世を撃破し、その後ペルセポリスを陥落させてペルシア帝国を滅ぼし、古代オリエントの時代は幕をおろします。

 そのイッソスの戦いを描いたのがこの『アレクサンドロス大王の戦い』です。アレクサンドロス大王は東征し、シリアのイソス河のあたりでペルシアの大軍と衝突しますが、やがて配色濃いペルシア軍は徐々に敗走を始めます。画面のなかに、これでもかと渦巻く大軍は、見ているうちにクラクラしてきそうですが、なおも目をこらすと、両軍の兵士たちの一人一人、馬の一頭一頭が実に緻密に、細やかに、かつ整然と描きこまれているのがわかります。その中央を、三頭立ての馬車に乗って逃げるダレイオス三世と槍を持って追走するアレクサンドロスの姿も見えて、いかにも物語的で、優雅と言ってもいいような歴史画となっています。
 そして、目を徐々に遠方にうつしたとき、そこに広がる空間表現、風景表現の展開に、再び新たなめまいを感じてしまうのです。壮大とか幻想的とか、さまざまな言い方で賞賛されるのですが、これはそれを超えている気がします。言うなれば、これは宇宙の始まり…すべての混沌が少しずつ形を成そうとする、その過程のときではないかと思ってしまうのです。

 アルトドルファーは、16世紀にドナウ河沿岸に展開したドナウ派最大の画家であり、人物と自然の風景を融合させて、それを劇的に表現した風景画の開拓者とも言える人物です。ドナウ河畔の深い針葉樹の森を細密に幻想的に描く彼の自然観に支えられた空は、森も建物も人も、また闘争さえも、すべて呑み込んでしまうほどに果てしなく広大で、限りなく宇宙的なのです。

★★★★★★★
ミュンヘン、 アルテ・ピナコテーク 蔵



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