妻のサスキアを亡くし、私生活でのゴタゴタも重なった、レンブラント抒情主義の時期の作品です。
単純な構図の中で、光り輝くキリストが鎮座していて、劇的な明暗の対比は影をひそめ、やわらかくて温かいぬくもりを感じさせてくれます。でも、不思議なのは、いったいここはどこなのでしょうか?
キリスト以外はレンブラントの時代の人々ですし、これからいっしょに食事でもするところらしいし・・・と、思っていたら、「エマオ」はキリストの復活の地だと気がついて、ああ、なるほど・・・と気づきます。
フォン・ボーデは、
「オランダ人はレンブラントによって聖書の精神を教えられた」
と言っています。
レンブラントは、オランダの生活と人間を徹底的に描き続けた画家です。彼は現実の人間をきちんと愛せる人だったのだと思います。だから、レンブラントにとって、聖書の物語もオランダの市民社会であり人間だったのでしょう。それを宗教的情感にまで昇華させることができた希有な画家だったと言えるような気がします。
なんだか、ちょっと戸惑った表情をしているようなキリストが親しみやすくて、見る者の心の内に温かく染み入る、レンブラント成熟期を代表する作品です。
★★★★★★★
パリ、 ルーヴル美術館蔵