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「カラスのいる麦畑」

ヴィンセント・ヴァン・ゴッホ (1890年7月)

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「WebMuseum, Paris」のページにリンクします。

 画面全体が叫んでいるような、スピード感と漲るような力を感じさせる絵です。
 冥界の暗さを予感させる、青よりも黒と言ってしまってよいような空、強烈なタッチでざわめく黄金色の麦畑、奔流のように激しい赤い道・・・。どれをとっても不吉な連想をさそう画面です。しかも、空には死の象徴であるカラスが群れをなして飛び交い、ゴッホの上に自らの死の翼を降ろそうと狙っているようです。
 しかし、もしかすると、これは、世の定説に惑わされた感想なのかもしれません。ゴッホがこの後、この絵とほぼ同じ場所でピストル自殺をはかることから、画家にありがちな、無意識のうちの遺書的作品であるとの先入観が、この絵を暗く息苦しい絵と錯覚させるだけなのかもしれません。
 なぜなら、この絵にはゴッホのどの作品よりも、生への希求と強い希望が込められているように感じられるからです。

 しかしゴッホは、かつて弟テオへの手紙の中で、
「死は悲しいものではない」、
「死は純金の光にあふれた太陽とともに、明るい光の中でことが行われる」
と、死を望むような言葉を多く語っています。
 そして、夏の盛りの日曜日は、太古から太陽を崇拝する日と定められた日であり、その日に彼は自らに向けてピストルの引き金を引いてしまったのです。

 この作品の空にも象徴されるように、ゴッホにとってオーヴェールでの「青」は生の深淵を覗き込んだときのメランコリックな青であり、北方的ウツ状態の青です。死への不安に揺れながら、いつの間にか死を希求していたゴッホは、青によってその底知れない悲しみを描き、そして旅立ってしまいます。
 あれほど怖れていた死が、実は自分を救う唯一の道であるという結論に達したということなのでしょうか。「生への希望」より「死への願望」を選んだゴッホ最晩年のこの作品には、しかし、カラスの飛び交う空いっぱいに、彼のあらん限りの力が叩きつけられているようです。

★★★★★★★
アムステルダム、 国立ファン・ゴッホ美術館蔵



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