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「ガッザーダの風景」

ベルナルド・ベロット   (1744年)

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 宝石の中でも特に、水晶のような光と表現したらいいのでしょうか。透明で、この上なく純粋で清らかな光が画面全体にあふれています。陽の当たる白い壁の、なんと美しく、まぶしいことでしょうか。のどかで穏やかな佇まいの中で、人々は心地良さそうに日々の生活を営んでいます。この夢のような、詩情あふれる写実の世界の住人になれたら….と、この作品を見た多くの人が、ふとそんな思いにかられるのではないでしょうか。

 作者のベルナルド・ベロット(1721-80年)は18世紀ヴェネツィアを代表する景観画家カナレットの甥にあたり、ヴェネツィアにおいては弟子であり、助手でもありました。しかし、1747年に突然、永久にイタリアの地を離れています。そして、ドレスデン、ウィーン、ミュンヘン、ワルシャワの各宮廷に仕えて生涯を送りました。この作品は、そんな画家の初期の傑作であり、ロンバルディア地方を旅している間に描かれたものと言われています。
 ところで、ベロットは特にポーランド滞在中に、叔父であるカナレットの名前を不法に用いることが多かったといいます。このため、ベロットとカナレットの作品に混乱が生じたのも事実でした。おそらくは故意にカナレットを称したベロットの意図は、偉大な叔父の名を上手に利用しようとするものだったのかも知れません。しかし、そんな必要を感じさせないほど、ベロットの作風は彼独自の美しさを十分に有していましたし、カナレットのもとで学んだ街景画とはまた一つ趣の違う、オランダ絵画を思わせるような自然への感性に満ちたものでした。

 この作品もまた、ベロットらしい雲や光、豊かな樹木などへの関心を十分に感じさせる、彼自身の様式を確立したと言ってもよい壮麗な一作です。画面からは、雲を押し流し、まっ白な洗濯物をカラリと乾かす初秋の爽やかな風が確かに吹いてくるのです。そして、屋根のタイルや壁、石ころにまでベロットの丹念な情熱が注がれ、宝石のような輝きが私たちの目と心をとらえます。さらに遠景に目を転じれば、そこには少しずつ移り変わる木の葉の色の豊かな表情、そのさざめきまでも、はっきりと伝わってくるのです。点々と描かれる人々は単純な色彩で表現されていますが、日常の平和な営みの息づかい、明るい話し声が聞こえてきそうなほどの親密さは見る者の心をふわりと温かく包み込み、画面の中へ引き込んでしまうようです。
 いまだカナレットの指導下にあったとき、ベロットはローマ、フィレンツェ、トリノ、ミラノ、ヴェローナとイタリア中を長期にわたって旅行し、それぞれの町の空気を伝える印象深い作品を残しています。そして、そこには各地の建築物だけでなく、その土地独特の光、風をみごとに捉える彼の能力がはっきりと示されているのです。

★★★★★★★
ミラノ、 ブレラ美術館 蔵

 <このコメントを書くにあたって参考にさせていただいた書籍>
  ◎西洋美術史(カラー版)
      高階秀爾監修  美術出版社 (1990-05-20出版)
  ◎イタリア絵画
      ステファノ・ズッフィ編、宮下規久朗訳  日本経済新聞社 (2001/02出版)
  ◎オックスフォ-ド西洋美術事典
       佐々木英也訳  講談社 (1989-06出版)



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