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「キリストの神殿奉献」

シュテファン・ロッホナー (1447年)

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 つややかな色彩が夢のように甘美な、キリストの神殿奉献の場面です。厳粛な儀式のシーンながら、天使や子供たちの歌声、父なる神の喜びの声が聞こえてきそうな画面です。この美しさが、ケルン派を代表する画家ロッホナーの魅力なのです。

 ドイツ語圏の国際ゴシックを代表する中心地ケルンでは、原色に近い鮮やかな色彩で描かれた甘美な様式が14世紀から15世紀後半まで続きました。そうした画家たちを、ケルン画派と呼んだのです。その頂点に立つ画家がシュテファン・ロッホナー(1410年頃-51年)でした。
 中世以来の匿名の伝統を守るケルン画派の中でもロッホナーの名だけが残ったのは、ドイツ・ルネサンスを代表する画家デューラーが日記の中に彼の名を記したことによります。デューラーは、ネーデルラント旅行の途中にケルンに立ち寄るなど、ロッホナー作品と親しむ機会は多かったのかもしれません。ケルンはライン川の港としてドイツ各地とネーデルラントを結ぶ交通の要地となっていたのです。
 ロッホナーの大きな特徴は、丸顔にくりくりっと可愛い目をした人物像でした。その優雅で優しい聖母や聖女たち、幼いキリストや天使の表現は大変な人気を博したようです。さらに、彼の天性かとも思える色彩の美しさ、愛らしさは他の追随を許さないものだったと思われます。

 この場面は、幼いキリストが、マリアとヨセフによってエルサレムの神殿へと連れて来られた「神殿奉献」をテーマとしたものです。
 モーセの律法に、すべての生き物の初子は神に捧げられねばならぬこと、そして子供たちは、5シケルで身請けされるべきことが記されています。これは、初期キリスト教会においては、神に聖別されるための大切な祝祭の一つでした。
 この儀式を甘美な世界に描き上げながら、一方でロッホナーは、キリスト教図像学に基づく細部描写にも怠りがありません。黄金の祭壇をよく見ると、律法の石板を手にしたモーセ、祭壇の下には「イサクの犠牲」が描き込まれています。これは、ユダヤの偉大な族長となる少年イサクが、神の命により、父アブラハムの手で犠牲に供されかけた瞬間です。もちろん間一髪、イサクは天使によって救われるのですが、祭壇の幼児キリストとこの「イサクの犠牲」は、ともにキリスト受難の予型とされているのです。
 祭壇のみごとな金箔や背後の繊細な草花の模様にも、画家の並外れた技量が見てとれるようです。さらに、聖母の衣装や天使たちの衣に施された深い青の色遣いは、まさに夢のような美しさです。

 この作品は、ケルンのドイツ騎士団のために、ザンクト・カタリナ聖堂の主祭壇として注文された139×124㎝の大作です。画面の向かって右側には、胸に騎士団の十字章をつけた人物の姿も見ることができます。また、手前のヨセフのやや心配そうな様子など、人物それぞれの意識も丁寧にとらえられて、ロッホナーの繊細な精神がすみずみにまで行き渡っているのがわかります。

★★★★★★★
ダルムシュタット、 ヘッセン州立美術館 蔵

 <このコメントを書くにあたって参考にさせていただいた書籍>
  ◎ルネサンス美術館
       石鍋真澄著  小学館(2008/07 出版)
  ◎オックスフォ-ド西洋美術事典
        佐々木英也訳 講談社 (1989-06出版)
  ◎西洋美術館
        小学館 (1999-12-10出版)
  ◎西洋美術史(カラー版)
       高階秀爾監修  美術出版社 (1990-05-20出版)



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