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「セザンヌ礼賛」

モーリス・ドニ (1901年)

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 「セザンヌ礼賛」というタイトルでありながら、若い画家たちの視線は左端に立つルドンに注がれています。この作品は、象徴主義の画家ルドンへの、ナビ派の画家たちによる尊敬と賛辞を表したものなのです。
 ナビ派とは、印象派以後の絵画の流れの一つであり、「ナビ」はヘブライ語で預言者を意味しました。自然の模倣をやめ、美術家の主観的感情を大切にすべきという信念のもと、新しい絵画を目指す若い画家たちの意気込みが感じられますが、彼らはまるで秘密結社のような集会を持つ独特な存在でもありました。お互いを名前でなく「何々のナビ」と呼び合うあたりに、彼らなりの自負心も感じられるわけですが、その中でドニは「美しき聖図像のナビ」と呼ばれていました。

 モーリス・ドニ(1870-1943年)は、宗教的な主題を多く手掛けた画家です。実際、彼は、絵画を本質的に宗教的なものであると述べ、特にキリスト教的な芸術であるという信念のもと、ナビ派における理論家としても知られていました。フラ・アンジェリコから大きな影響を受け、妻や家族をモデルとした優しい画風が特徴的です。
 この作品は、画商ヴォラールの画廊に集まったナビ派の肖像であり、抒情性を抑えた静かな客観性を前面に押し出すことで、他のドニ作品とは趣きを異にしています。ルドンの右にはヴュイヤール、シルクハットの紳士の隣がヴォラール、ほかにもセリュジエボナール、ドニ自身、そしてドニの妻マルトも描き込まれ、何ともにぎやかで、親密な空気が伝わります。
 そして、黒のスーツやコートの群像の中央にはセザンヌのリンゴの静物が置かれ、鮮やかな色彩と白ろうのような器は確かにセザンヌのものです。しかし、セザンヌの絵を見つめる人は誰もいません。皆がルドンを見つめます。その才能にもかかわらず、長く権威から認められることのなかった天才ルドンへの畏敬の念が、ここにはあふれているのです。タイトルとは裏腹に、印象派の巨匠ではなくルドンをこそ称えるドニの心情が伝わってくるような作品ではあります。

 ところで、ここに架けられているセザンヌの作品はゴーギャンの愛蔵品でしたが、後に作家アンドレ・ジイドの所蔵になったものです。ゴーギャンを通じて印象派に触れ、やがてルドンに心酔したドニの心の軌跡もまた、垣間見えるような気がしてくるのです。

★★★★★★★
パリ、 オルセー美術館 蔵

 <このコメントを書くにあたって参考にさせていただいた書籍>
  ◎印象派
       アンリ‐アレクシス・バーシュ著、桑名麻理訳  講談社 (1995-10-20出版)
  ◎西洋美術館
       小学館 (1999-12-10出版)
  ◎印象派美術館
       島田紀夫監修  小学館 (2004-12出版)
  ◎西洋美術史
       高階秀爾監修  美術出版社 (2002-12-10出版)
  ◎西洋絵画史who’s who
       美術出版社 (1996-05出版)

 



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