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「セビーリャの水売り」

ディエゴ・ベラスケス (1620年ころ)

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 画面の前面に非常に写実的、彫刻的な技法で描かれているのは、スペインのセビーリャなど、アンダルシア地方の町でよく見られた水売り商人です。これは当時のスペイン的風俗のひとつであり、ベラスケス自身が得意とした厨房画と呼ばれるものの一つだと思われます。
 前景、中景、後景へと「く」の字に配列された三人の人物は画面に奥行きを与え、集中的照明法によって浮かび上がった水売りの男の姿は、市井の商人と言うにはあまりにもドラマチックで風格があり、深い精神性を宿した確固たる存在として私たちを魅了します。
 それにしても、彼のこの深いしわの刻まれた顔の、なんと素晴らしいことでしょうか。皮膚の光沢、知性の宿る伏し目がちな目、頬から顎にかけての年輪を思わせるそげ落ちたたるみ、非常に意志的な口元・・・。こんなに素晴らしい、人生そのものを思わせるような顔を描いてしまうベラスケスって何者?・・・と、あらためて彼の才能の底知れぬ深さに驚嘆してしまいます。

 このころ、彼はこの厨房画にもっとも本領を発揮していたと言えます。人物の表情や動きの把握、画面構成といったことが当時のベラスケスの課題でしたし、彼の生硬な技法、不透明でくすんだ色調、そして彫刻をおもわせる画面構成はどこかカラヴァッジオ的で、手を伸ばせば画面の中の人物にふれることができそうに写実的です。
 塩抜き用のイチジクの実を入れたグラス、右手前の大きな水瓶、そして光り流れ落ちる水滴など、本当に触覚的で、そのリアリスティックな質感にクラクラしそうです。
 ベラスケスは、現実に存在するものたちを誇張することなく、あるがままに描くことを貫いた画家であり、冷厳な自然観察に徹することが彼の一貫した態度でした。しかし、ここに描かれた人物たちは彼のたしかな技法によって現実以上の存在感を示し、生きた彫刻のように永遠のときの中に息づき続けているのです。  

★★★★★★★
ロンドン ウェリントン卿美術館蔵



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