「踊り子の画家」と呼ばれているドガの、印象的な一作です。
厳しい練習の合い間の休憩時間。それまで張りつめていた空気がふっとほどけ、踊り子たちのざわめきが、室内に広がる瞬間をとらえたと思われる作品です。
パリ・オペラ座のリハーサル室。バレリーナの大半がくつろいでいる中、バレエ教師のジュール・ぺローだけが、リズムを取るための長い杖をついて、何か注意を与えてでもいるのかも知れません。
でも、当の踊り子たちは、
「疲れちゃって、そんなの聞いてらんない・・・」
みたいな感じで、チョット笑えてしまいます。
ドガはおそらく、そんな印象を、ありのまま心にとらえて、あとは何度もデッサンを繰り返し、この絵を完成させたのだと思います。
X線による調査で、構図が当初のものより大幅に変更されていることがわかっていますが、そのことからも、一枚の絵に対する、ドガの深い思い入れを感じます。
まず、画面の奥へ向かって、人物が三角錐の形に配されていて、自然に部屋の奥行きを感じさせてくれます。また、踊り子の髪飾りやウエストのリボンに効果的に赤が使われていて、ポイントになると同時に、見る人の視線を画面の奥へと引き込んでしまいます。巧みなドガ・マジックでしょうか…。
「同じ主題を10回でも100回でも描かなければならない」
というドガの言葉に、彼の確かなデッサン力の源が表現されているようです。
実在のドガは、相当偏屈な人柄だったらしく、友人も少なかったそうです。でも、手前の踊り子の足元に、かわいい、ヨークシャーテリアと思われる子犬が描かれていたりするのを見ると、本当はテレ屋の恥ずかしがり屋を誤解されていただけなんじゃないか・・・などと思えてくるのです。
★★★★★★★
パリ、 オルセー美術館蔵