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「トレド風景」

エル・グレコ(1595-1600年)

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 グレコは、ギリシャのクレタ島に生まれ、その後、ヴェネツィアでティントレット、ローマでミケランジェロの影響を受け、スペインのトレドで活躍した画家でした。
 タホ河のめぐる岩山に造られたトレドはイスラム以来の古都であり、グレコにとって、その画業のほとんどを過ごした地でもあったわけです。画面中央やや左寄りに見えるアーチ型の橋が、タホ河を渡るアルカンタラ橋、ほかに城壁、大聖堂、アルカサール宮も見えます。

 しかし、彼にとって大切なトレドの風景でありながら、この作品はなんて恐ろしい風景画なのでしょうか。暗い空にただならぬ雲が立ち、遠くでひっきりなしに雷鳴がとどろいている・・・そんな雰囲気です。そして、建物には異常な光が反射して、その輪郭が気味悪く浮かび上がっています。おそらく、人々はおののき、これから何が起こるのだろう・・・と息をひそめて、ただ空を見上げているのではないでしょうか。
 もちろんグレコの絵は、人物の極端な長身化や様式化、非現実的空間表現等のマニエリスム的特徴が色濃いわけですが、それを風景画にも大胆な筆触で行なってしまっています。風景を引き伸ばし、ほとんど引き裂いてしまったようなこの作品は、絵自体が悲鳴を上げているような、鬼気迫るものがあります。今にも画面全体がグニャグニャと動き出し、何か全然違うものに変質してしまいそうです。
 グレコが、スペイン・キリスト教の神秘主義や安定した古典の全盛期を脱して変化しようとするこの時代の、最もすぐれた体現者であったと言われるのは、こうした表現力のせいだったのかも知れません。

★★★★★★★
ニューヨーク、 メトロポリタン美術館蔵



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