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「ハールレムのシント・バーフ大聖堂内部」

ピーテル・サーンレダム(1636年)

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 帽子を被った少年は、巨大な柱を擁するアーチの向こうの、剣を下げた裕福な身なりの男を見つめています。そして男は、教会の中央に立ち、じっと上を見上げています。男の視線の先には、15世紀の豪華なパイプオルガンが設置されています。細密に描き込まれたそのオルガンの蓋は開かれ、「キリスト復活」の象徴的な図を見てとることができます。視線は視線を導き、この作品の最も重要なポイントへ鑑賞者の心を誘うのです。

 教会堂の内部を描いた絵画は、17世紀オランダにおいて独立した専門分野となっていました。特にピーテル・ヤンス・サーンレダムは、”最初の教会堂内部の画家”と言われています。それは、彼以前の建築画家たちがみな、ある意味で想像的な建物を描いたのに対し、ひと目見ればそれが何処であるか判るものを描いたからです。
 正確な遠近法と洗練された表現力によって描き出された教会内部は見る者を圧倒し、侵しがたい神聖な空気感で包みます。画家は、この作品のため、現場で素描を繰り返し、数週間を費やして油彩作品に仕上げたといいます。精緻な描写は特に、教会堂内の光や色彩、そして大空間への強い興味に向けられていました。
 ピーテル・サーンレダム(1597-1665年)は、ハールレムとユトレヒトの大きな白塗りのゴシック教会、そして、生地アッセンデルフトやアムステルダムなどの建築を多く描きました。この作品の舞台、ハールレムのシント・バーフ大聖堂も、数世紀をかけて建築された、ロマネスクとゴシック様式の特徴を兼ね備えた魅力的な教会堂です。天井の高い、細長い堂内は今もそのままの姿を保ち、冷たい静けさも、サーンレダムが描写した当時の空気をそのまま内包しているようです。

 ところで鑑賞者は、中央の男に誘われるようにゆっくりと上を見上げます。おそろしく高い位置に設置されたパイプオルガンの前には人が座っており、今まさに演奏が始まろうとしているのかもしれません。
 このオルガンの豪華さは、教会内部の冷たい透明感とは対照的です。実は当時、この建物で活動していた、神の主権を絶対とするカルヴァン主義の聖職者たちには、極力カトリック様式の豪華さを避けたいという考えがありました。つまり、このように装飾的な、宗教改革以前のパイプオルガンは必要としなかったと思われるのです。画家は、そんな時代の複雑な空気までも、この清らかな空間に込めたのでしょうか。

 当時、教会は人々の集会所のような役割を果たしていました。画面には、点々と人物が描き込まれ、背景に溶け込んでいきます。回廊部分で密会している様子の男女も、場違いな闖入者という感じではなく、端正な遠近法の中に画家が仕掛けた、ちょっとしたイタズラのように思えます。

★★★★★★★
アムステルダム、国立美術館 蔵

 <このコメントを書くにあたって参考にさせていただいた書籍>
  ◎西洋名画の読み方〈1〉
       パトリック・デ・リンク著、神原正明監修、内藤憲吾訳  (大阪)創元社 (2007-06-10出版)
  ◎オックスフォ-ド西洋美術事典
       佐々木英也著  講談社 1989/06出版 (1989-06出版)
  ◎昔日の巨匠たち―ベルギーとオランダの絵画
       ウジェーヌ・フロマンタン著、鈴木祥史訳 法政大学出版局 (1993/10/15 出版)
  ◎西洋美術史(カラー版)
        高階秀爾監修  美術出版社 (1990-05-20出版)
  ◎西洋絵画史WHO’S WHO
         諸川春樹監修   美術出版社 (1997-05-20出版)  



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