きらびやかに着飾ってバルコニーにもたれかかり、何やらささやき合っているマハたちの美しさが際立った作品です。
バラ色の頬、黒い瞳、どこか媚びを含んだ口元・・・。しかし、その後ろに立つ男たちは貧相で悲しげで、この二組の男女が恋人同士にはとても見えません。
これはスペイン文学の古典的テーマの一つである、売春婦と遣手婆が発想のベースとなった作品であると言われています。
舞台劇を思わせるこの作品の背景には、妻のホセファの死と、そのすぐ後に、当時24歳のレオカディア・ウェイスを家政婦として迎えたことがあるのではないかと思われます。妻の死後、ゴヤの生活に入って来た若いレオカディアへの想いが、後ろに立つ男たちの空虚さに比べ、女性たちの美しさと若さへの賛美に感じられるからです。
マハたちの衣装のきらめきは、そのまま若さの輝き、つまり若いレオカディアへの愛につながっているのではないでしょうか。
この時、ゴヤはすでに65歳を越えており、熱烈な自由主義者であったレオカディアの側には問題がなくても、主席宮廷画家となっていたゴヤにとって、この内縁関係は決して居心地の良いものではなかったようです。封建的な因習の根強いスペインのお国柄とでも言うべきかも知れません。
さまざまな憶測がなされている、「聾の家」と呼ばれる別荘への隠遁生活には、意外にも、そんな事情がからんでいたと見る向きもあります。
★★★★★★★
ニューヨーク、 メトロポリタン美術館蔵