「グランド・ジャット島の日曜日の午後」のような野外の光とは反対に、ここでは夜の人工照明の光がテーマになっています。
ロートレックをはじめとする当時の多くの画家がそうであったように、まじめなスーラもまたパリの夜の生活に魅力を感じていたらしく、カフェでのコンサートやダンスホール、それにサーカスといったものを満喫していたようです。
幻想的なこの作品は、サーカスの楽団のブースを描いたものです。中央に立っている黒いシルエットはトロンボーン奏者で、後ろに並ぶ山高帽のバンドマンたちがステージ照明の中に溶け込んでいるのに対して、相当印象的な存在です。
点描画独特の、やわらかい明暗がつくり出すモワッとした雰囲気の中で、下にいる聴衆たちはボール紙を切り抜いたシルエットのように平面化されていて、人形のような印象を受けます。スーラの洗練された感性が生み出した、都会的で幻想的で詩的な作品です。
しかし、なぜか不気味さが漂うのは気のせいでしょうか。中央のトロンボーン奏者が、まるで死神のように見えるのです。顔がはっきり見えないのですが、実は口は耳まで裂けていて、こちらに向かってニカッと笑っているような気がします。
この作品から3年後、スーラは風邪をこじらせて、31歳の若さであっという間に亡くなりますが、すでに死神は彼を迎える準備をしていたのではないでしょうか。
★★★★★★★
ニューヨーク、 メトロポリタン美術館蔵