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「フェリックス・フェネオンの肖像」

ポール・シニャック (1890年)

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 この背景は、どう考えるべきなのでしょう。宇宙的と表現すべきか、それともサイケデリックと言うべきか。どちらにしろ、19世紀に描かれたとは、にわかに信じがたいカラフルさではあります。
 しかし、背景にばかり目を奪われてうっかりするところでしたが、これはれっきとした肖像画なのです。さらに言うなら、この背景は画家自身が所蔵していた浮世絵や、日本の布地のデザインを参考にしたものであり、当時画家が傾倒していた科学者シャルル・アンリの理論が応用されていると言われています。

 この、めまいがしそうな魅力的な肖像画は、新印象派の画家ポール・シニャック(1863-1935年)の作品なのです。小さな色点を併置する筆触分割法を開発したスーラに感化されて点描を始めたシニャックは、のちにスーラとの友情を深め、パレットから黒や褐色を追放するようにアドバイスを与えたといいます。さらに、スーラに印象派の画家ピサロを紹介したのもまた、シニャックでした。
 この作品は、そんな画家の美しい点描作品の中でも、忘れがたい個性的な一作です。肖像画の主人公フェリックス・フェネオンは著名な批評家であり小説家でした。彼は1886年に初めて「新印象派」という言葉を用い、新印象派の画家たちを擁護する論文を発表し、彼らの最大の支持者となった人物です。
 そんなフェネオンを、シニャックが奇妙な…と称してもいいような肖像画として描いたのは氏への敬意と友情の現れだったのでしょう。みごとな補色の組み合わせをバックに彼を描くことで、自分たちの活動を後押ししてくれたフェネオンへの感謝を表現したのだろうという気がします。
 シニャックはのちに、フェネオンの勧めで、点描の理論と方法を体系づけた『ウジェーヌ・ドラクロワから新印象主義まで』を雑誌に発表し、翌年にはこれを単行本として刊行しています。この本の反響は大きく、多くの若い画家が点描表現を試みたといいます。

 ところで、この作品の正式名は、『拍子と角度、調子と色相のリズミカルなエナメルの背景の前のフェリックス・フェネオンの1890年の肖像』といいます。なんとも抽象絵画的なタイトルが新鮮ですが、確かにリズミカルで不思議に美しい背景ではあります。
 シルクハットと杖を持つマジシャンのようなスタイルの彼は、右手に白い花を持ち、その右手から幻想的な色彩の帯が渦を巻いていきます。この鮮やかな色彩のヒントとなったのがシャルル・アンリの『科学的美学序説』と言われています。スーラやシニャックは、まったくの純色だけを体系的に並列し、網膜上の視覚混合を100%引き出す道を拓きました。それによって、パレットや画布の上での混色とは明らかに違う、純粋な色彩の輝きを実現させることができたのです。

★★★★★★★
ニューヨーク近代美術館 蔵

 <このコメントを書くにあたって参考にさせていただいた書籍>
  ◎印象派
       アンリ‐アレクシス・バーシュ著、桑名麻理訳  講談社 (1995-10-20出版)
  ◎西洋美術館
       小学館 (1999-12-10出版)
  ◎印象派美術館
       島田紀夫監修  小学館 (2004-12出版)
  ◎西洋美術史
       高階秀爾監修  美術出版社 (2002-12-10出版)
  ◎西洋絵画史who’s who
       美術出版社 (1996-05出版)

 



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