• ごあいさつ
  • What's New
  • 私の好きな絵
  • 私の好きな美術館
  • 全国の美術館への旅

「プットーを売る女」

ジョゼフ=マリー・ヴィアン (1763年)

ジャンプ

ここをクリックすると、作品のある
「Wikimedia Commons」のページにリンクします。

 行商の女性がプットー(キューピッド、クピド)の羽をつまんで籠から取り出し、高貴な女性たちにお披露目しています。「なかなか生きのいいプットーですよ」とでも言っているのでしょうか。お客様である裕福な女性と、その付き人とおぼしき2人は興味津々、バタバタと暴れるキューピッドを見詰めています。彼女たちは購入の意思を持っているのでしょうか。

 この作品は、ナポリ近郊で発掘された古代ローマの壁画を参考に描かれています。女性たちの衣装は当時の考古学に基づいた古代的なもの、背景の支柱など建築様式も古代建築の模写であることが認められています。ただし家具などはルイ16世様式であることから、テーマとともに不思議な折衷様式と言えるのかもしれません。垂直と水平が強調された安定的で厳格な構図ですが、その表現は簡素で軽妙、愛らしいものとなっています。ヴィアンはこのロココの雰囲気を残した作品を、1763年にパリで展示しました。

 ジョゼフ=マリー・ヴィアン(1716年6月18日-1809年3月27日)はフランス新古典主義の創始者と言われています。彼の主宰する教室にはダヴィッドも入会しており、弟子の一人でした。1743年にローマ賞を受賞し、6年間イタリアで過ごしています。そこで古代の芸術を賛美するヴィンケルマンの理念や遺跡の発掘品に魅了され、絵画の制作過程で古典的要素を積極的に取り入れました。しかし作品には厳格さよりも優美さが認められ、最初の師であるロココの画家シャルル=ジョゼフ・ナトワールの影響が色濃く感じられる画風を貫きました。それが何よりヴィアンの魅力でもあったのです。
 1775年にはローマのフランス・アカデミーの院長に任命され、1789年に国王ルイ16世の首席画家となりました。つまり宮廷最後の画家ということになります。しかしフランス革命を経て、1804年に第一執政になったナポレオン・ボナパルトはヴィアンに注目しました。そしてヴィアンを伯爵に任じ、護憲元老院議員に任命しています。
 妻のマリー・テレーズ・ヴィアンも息子のジョセフ=マリー・ヴィアン2世も画家です。殊にマリー・テレーズ・ヴィアンは肖像画と静物画の画家として、国際的にも非常に名の通った女性でした。

 作品に戻って、プットーは古代ギリシャの愛の神エロス(古代ローマのアモール)のことですが、ルネサンス期以降になると、幼い男の子を意味するイタリア語の「プットー」で総称されるようになります。籠にプットーを入れた女性は愛を売る行商人なのでしょうか。何とも不思議で興味深い画面の中で、ガラスの花瓶や煙が立ち昇る磨き込まれた香炉が端正な存在感を示しています。

★★★★★★★
フォンテーヌブロー宮国立美術館 蔵

 <このコメントを書くにあたって参考にさせていただいた書籍>

  ◎ビジュアル年表で読む 西洋絵画
       イアン・ザクゼック他著  日経ナショナルジオグラフィック社 (2014-9-11出版)
  ◎オックスフォ-ド西洋美術事典
       佐々木英也著  講談社 1989/06出版 (1989-06出版)
  ◎西洋美術史(カラー版)
       高階秀爾監修  美術出版社 (1990-05-20出版)
  ◎西洋美術館
       小学館 (1999-12-10出版)



page top