六人の人間が思い思いの方向に視線を向け、率直で飾り気のない表情を見せているこの作品は、ホガース家で働く人々を、ホガース自身の目が的確にとらえて描いたものです。
右上に見えるのは、召使いの中でもリーダー格の男性でしょうか、初老の、何もかも心得たような表情に自信が感じられます。また、まだあどけない10歳前後の少年から年若い少女、少し年かさの女性まで…それぞれの表情には幅広い変化が見られ、ただ単に頭部を並べただけではない興味深さに満ちています。
また、彼らの表情には人間として尊厳、自信がうかがえ、その瞳は生き生きと輝いて、鑑賞する私たちはとても素直な気持ちで、鮮やかに描き分けられた人間性の豊かさ、率直さに感動をおぼえてしまうのです。
ウィリアム・ホガースは、近代イギリス絵画の創始者、版画家であり、純粋に「イギリス絵画の父」と呼ばれるにふさわしい画家であったと思います。彼の父は貧しい教師でしたから、ホガース自身は実質的に、独学で絵画を学んだのです。銀器彫刻師の徒弟を経て絵画技術を習得した彼の作品の特徴は、「現代の道徳的主題」を制作したことにありました。
ホガース自身、当世風なもの…貴族や富裕な市民、エリートに対する辛辣な風刺と巧みなユーモアをまじえた「現代の道徳的主題」にこだわった理由として、
「これまでの小説家も画家も、歴史的な様式にこだわり、崇高なものとグロテスクなものの中間に位置するジャンルをまったく見落としてきたため」
と語っていますが、この場合のグロテスクなものとは、どうやら、大衆受けをねらった粗野な風俗画や極端な誇張で人の目を引こうとする作品を言ったもののようです。
ホガースが生きた時代は小説文学の黄金時代でもあり、ホガース自身、絵を通して物語ることに強い興味を示し、それは、いかにもイギリス的なユーモアと風刺に満ちて、当時のヨーロッパ絵画に新しい局面を切り開くものとなりました。
ところで、一般的に、風刺画家、版画家として知られるホガースでしたが、また非常に優れた肖像画家でもありました。その注文主のほとんどは貴族や上流階級の市民でしたが、彼の描く肖像画は、気転のきいた風刺画家としての彼への期待を裏切るものではなく、明敏な観察眼による対象の的確な性格描写、親しみやすい生き生きとした表情が特徴でした。
ホガースが好んで描いた当世風で「現代的」な主題は、イギリスにおける市民による市民のための初めての絵画…ということが言えるのかも知れません。
ホガース家で働く六人の人々もまた、今にも元気に動き出しそうな、血の通った表情を見せてくれています。そこには、人々を愛し、時代を愛し、絵画を愛したホガースの心意気が漲っているようです。
★★★★★★★
ロンドン、 テイト・ギャラリー 蔵