ふっくらした幼な子は、聖母のひざの上がちょっと飽きてしまったのでしょうか、寄進者であるジョヴァンニ・マッテオ・ボッティジェッラのほうに大きく身を乗り出し、まるで「おじさん、だっこ」と言っているようです。そんなイエスにやや戸惑う寄進者の背中をそっと支えるように立つのは、恐らくは寄進者の守護聖人なのでしょう。このように、祭壇画の中に寄進者とその守護聖人が描かれることはごく一般的なことでした。
そんなふうに微笑ましい雰囲気を持った聖会話の図ですが、聖会話とは普通、聖人たちに囲まれた聖母子像のことをいいます。聖母に侍して立つ聖人たちが一枚の絵の中で一堂に介しており、聖母は幼いキリストを抱いて玉座についているのがお約束です。また、さまざまな時代の聖人たちが、その生存年代に関係なく一緒に描かれることも普通なのですが、この板絵はまた人数が多く、なんともにぎやかです。
ここに描かれたいる人物をざっと紹介すると、聖母子を中心として、左から福者ドメニコ・ディ・カタローニャ、聖ヒエロニムス、洗礼者ヨハネ、聖ステパノ、聖マタイ、福者シピリーナ・ディ・パドヴィア、そしてその間に寄進者夫妻がひざまずくという構成です。聖人たちがそれぞれに二人一組となって語り合い、思いやりを見せる様子はなんとも自然で、どこかメランコリックな雰囲気もたたえています。
ところで、ここで素晴らしいのは聖母の真上のビロード地が張られたような天井ではないでしょうか。繊細な明暗法で描き出された微妙な凹凸に、画家の遠近法への理解が感じられます。登場人物の顔貌にも丁寧な影が施され、それが人物の表情に命を与えているのです。
作者のヴィンチェンツォ・フォッパ(1427/30-1515/16年)は、ルネサンス幕開けのロンバルディアで最も重要な画家と言われています。いまだ国際ゴシック様式に支配されたミラノ、パヴィア、リグーリアで活躍し、その絵画様式を伝えました。どこかフランドルの絵画を彷彿とさせる空気感、透明感に満ちた画面からは、聖人たちのひそやかな語らいが聞こえてくるようです。
★★★★★★★
ロンバルディア、 パヴィア市立美術館 蔵
<このコメントを書くにあたって参考にさせていただいた書籍>
◎西洋美術館
小学館 (1999-12-10出版)
◎イタリア絵画
ステファノ・ズッフィ、宮下規久朗編 日本経済新聞社 (2001-02出版)
◎オックスフォ-ド西洋美術事典
佐々木英也訳 講談社 (1989-06出版)
◎西洋美術史
高階秀爾監修 美術出版社 (2002-12-10出版)
◎西洋絵画史who’s who
美術出版社 1996/05 (1996-05出版)