「マタイ伝」2章の、東方三賢人の物語を描いた作品です。
東方からベツレヘムまで、星に導かれてキリストの誕生を祝うためにやって来た三賢人。タイトルの「マギ」はペルシアの僧侶階級のことで、ここでは賢者にして王のことを言っているのです。
1494-95年にかけてのイタリア旅行の成果として生まれた作品で、旅行によって身につけたイタリア・ルネッサンス的なもの--たとえば、遠近法にもとづく三次元的な空間構成や生き生きとした色彩--がみごとに生かされています。前景から後景へかけての奥行きの深さといい、マギたちの衣装の鮮やかさといい、それはたしかに充分に生き生きとした大作だと思います。
しかし、そのイタリア・ルネッサンスを吸収し過ぎたデューラーは、明晰・調和の合理主義に傾いてしまい、ドイツ的な無器用さ、劇的な内面性、独特の不思議な暗さのようなものをなくしてしまったのだという指摘があります。得るものが大きければ、失うものもまた大きい・・・ということでしょうか。ともあれ、イタリア・ルネッサンスの洗礼を受けたデューラーは、この後、伸び伸びと制作してゆくことになります。
また、この作品の中で注目してしまうのは、マギたちの差し出す豪華で精巧な贈り物です。これは、デューラーの父親がニュルンベルクの金工であったこと、もともと故郷のニュルンベルクは、ゴシックの輝かしい金工芸術の一大中心地であったことが大きく影響していると思います。
ニュルンベルクのすぐれた金工芸術の伝統が、そのまま三賢人の手からキリストへ贈られる様子を描くことに、デューラーは無上の歓びを感じていたのではないでしょうか。
★★★★★★★
フィレンツェ、ウフィッツィ美術館蔵