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「マスター・ヘア」

ジョシュア・レーノルズ (1788年)

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 何か興味をひかれたものでもあったのでしょうか、可愛らしいふっくらとした腕を上げて、少年の意識は画面左の方向に集中しているようです。 自ら光を放っているかのようなフワフワの巻き毛の美しさ、動きの激しさからか、むき出しになった肩のみずみずしい輝き、今にもオシャベリを始めてしまいそうな口もとの愛らしさ…。
 この作品は、18世紀イギリスにおいて、当代一の肖像画家という評判の高かったレーノルズの作品です。2歳の少年の伯母によって注文されたこの肖像画の中で、レーノルズは、普通の大人がとっくに失ってしまった少年の無邪気さと魅力をいかんなく表現しているのです。

 宗教改革以来、イギリスでは肖像画以外の絵画はほとんど見られませんでした。そのうえ、主要な肖像画家といえば16世紀のホルバイン、17世紀のヴァン・ダイクといった外国人画家ばかりだったのです。
 それが18世紀になってやっと、イギリス生まれの芸術家が活躍するようになります。その中には、感性豊かな風俗画ふうの作品を多く残しているウィリアム・ホガース、イギリスの生んだもっとも偉大な肖像画家と言われたトーマス・ゲーンズボロなどがいるのですが、その中でおそらく、全身像の肖像画を150ポンドで請け負えるほどの、お金のとれる一流の画家といえば、ジョシュア・レーノルズその人だったのです。

 レーノルズは、イギリスにおいてもっとも尊敬される絵画を制作することに、ほとんど成功した画家だったと言われています。ほとんど…というところには少し含みはあるものの、イギリス王立アカデミーの初代校長という華麗な経歴の持ち主レーノルズの地位は揺らぐものではありません。
 彼は18世紀ヨーロッパ中に展開した古代文明への興味に影響された一人でした。彼の肖像画には、本物の紳士を見極めるしるしとして、「趣味の良さ」ということが重視された時代背景が反映されています。また、寓話ふうの小道具、仮装によって神話の中に登場する人物のように見せかけた肖像というのは、現代の私たちの目から見ると少々不思議な感じがしてしまうのですが、レーノルズは敢えてそうすることによって、作品を「高尚なもの」にすることができ、描かれた人物に新しいタイプの威厳を与えて、肖像画の地位を古典主義的な芸術にまで高めることができると信じたのです。

 しかし、そんな画家の思惑とは別に、この少年の無垢な微笑み、無意識で精一杯のしぐさの美しさには、理屈でない感動と安らぎをおぼえます。もしもレーノルズがこのまま、「高尚な芸術」といった飾りを欲しないで描いていたとしたら….他の肖像画に見え隠れする造り過ぎた画家の顔を感じないで、私たちは安心してその作品たちに浸ることができたのかも知れません。

★★★★★★★
パリ、 ルーヴル美術館 蔵



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