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「モナ・リザ」

レオナルド・ダ・ヴィンチ (1503-05年ころ)

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 ルネサンスの肖像画の中で最も有名で、そして特異な位置を占める名作。絵に全く興味のない人でも、西洋絵画と聞いてまず思い浮かべるのが『モナ・リザ』ではないでしょうか。
 この作品において、ダ・ヴィンチは同時代の画家たちが奇蹟とさえ思うほどの「スフマート」の完成をみせています。「スフマート」とは、水蒸気を含んだ大気がその形態に柔らかくヴェールをかけたような、薄もやで包んだような技法であり、そのおかげで、画面全体が内部からの柔らかい光で輝いているように見えるのです。もちろん、その神秘的な美しさについては、おそらく知らない人はいないと思います。

 しかし、この作品が人々を魅了するのは、そうした絵画的な精妙さが原因ではないでしょう。おそらく、描かれた人物の心理的な神秘性が、500年ものあいだ、人々を惹きつけてやまないからに違いありません。
 この作品は、肖像画としては私たちを戸惑わせ続けます。モデルの面立ちはあまりにも個性的で、見る人によっては不気味とうつることがあるかも知れません。そうでないにしても、彼女が美人であるかどうか、と問われて、首を縦に振らない人も多いかと思います。彼女の顔は、ダ・ヴィンチにとっても理想のかたちをしていたのかどうか….見つめているうちに、わからなくなってしまうのです。
 ただ、背後の低い壁や遠景の川、湖、岩山などの風景…それらがモデルと切り離された別々の存在ではなく、すべて統一され、均衡を保ち、画面が違和感なく一つになって安定しているのを見るとき、私たちは理屈でなく、心からの安らぎを感じてしまいます。そして、その画面の主人公である彼女の丸みを帯びた充実ぶりもまた、見る者に母に抱くような安心感、充足感を与えてしまうのです。そのとき、私たちは思うのです。彼女は何を考えているのだろう、こんなに安定した微笑をたたえる女性が本当にこの世の住人なのだろうか、と…。そして、ますます彼女の解明しがたい魅力にとらえられていってしまうのです。

 しかし、なぜ、これまでに描かれた微笑の中で、この作品だけが神秘的なものとして受け止められるのか…。そこには、モデルとなった女性にさまざまな説があること、そしてダ・ヴィンチ自身が最晩年まで手元に置いたことにも、単純でない興味をそそられる原因があるのかも知れません。
 『モナ・リザ』の呼称は、ヴァザーリの『美術家列伝』の記述、「フィレンツェの商人フランチェスコ・ディ・ザノビ・デル・ジョコンドの妻リザ・ゲラルディーノ」に由来します。しかし他にも、ジュリアーノ・デ・メディチの愛人説、コンスタンツァ・ダヴロス説、そしてまたダ・ヴィンチ自身の自画像ではないかとする説など、それはさまざまに囁かれ続けています。しかし、いずれにせよ、高度に理想化され、複合化されたレオナルドにとっての普遍的女性像であることは、おそらく間違いのないところではないでしょうか。

 ダ・ヴィンチは、画家は二つの重要なものを表現しなければいけないと考えていました。それは、「人間の姿」と「人の心の動き」ということです。見えるものの表現…つまり人間の姿は、ダ・ヴィンチにとって容易に表現し得たものだったでしょう。しかし、後者の、人の動作と表情を通して性格を表現することは、とても困難なことだと感じていたようです。ですから、一度、素描の段階で作品の構成、性格づけに関する問題を解決してしまうと、そのあとの作品の仕上げに関しては、単なる技術的な問題になってしまうため、とたんに完成への意欲を失ってしまうようなところがあり、しばしば依頼主とトラブルにもなったようです。
 そんな彼が、この『モナ・リザ』だけは最後まで手元に置いて、ときどき手を加えたりして大切にしていたのです。それを思うと、やはりますます謎めいた、不思議な心持ちにとらわれてしまいます。そして、思わず絵の中の彼女に無言の問いかけをしてしまうのです。あなたは、誰…?

★★★★★★★
パリ、 ルーヴル美術館 蔵



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