ラ・グルヌイエールはブージヴァル、アルジャントゥイユなどと並んで、パリ近郊のリゾート地の一つでした。戸外制作を通じて光に対する興味を磨いていった印象派の画家たちにとって、こうしたセーヌ川沿いの美しい場所は格好のテーマだったのです。
後には人物画へ向かうこととなるルノワールも、しばしば仲間と連れ立って、そうしたリゾート地を描いています。この作品もまた友人のモネとともに、ほぼ同じ構図で描いた光あふれる風景画なのです。誰とでもごく自然に親しく付き合うことのできたルノワールは、こんなふうに仲間たちと楽しみながら制作することも多かったに違いないという気がします。
ただ、同じ時間、同じ場所を描いても、それぞれの個性ははっきりと、その違いを際立たせます。モネの「ラ・グルヌイエール」は、本当に風景画です。人も水も木々も、同じ比重で画面の中に存在しています。着飾った人々も水浴する人も、個性を持たない点景です。水面をたゆとう光だけが生き生きときらめき、モネが本当に描きたかったものが何かを私たちに知らせてくれます。
しかし、ルノワールの「ラ・グルヌイエール」からは、人々の笑い声、さざめきが聞こえます。木漏れ日を浴びた人々は遠目ながらも幸福そうで、今を存分に楽しんでいることがうかがえます。悲しみやかげりを生涯描かなかったルノワールの本領が、この時期、すでに十分に発揮されているようです。
1869年9月、モネは仲間のバジールにあてた手紙の中で、ルノワールとともにラ・グルヌイエールで水浴する人々を描く予定であると書いています。もしかすると、これが移りゆく光を描きとめようとする、印象派誕生のきっかけとなった作品と言えるのかもしれません。
ラ・グルヌイエールは当時、娼婦も多く出入りする、ややいかがわしい場所だったということです。しかし、ルノワールの描くラ・グルヌイエールからは、そのような雰囲気は微塵も感じられません。画面中央の丸い浮島に集う人々はブルジョワ階級らしい華やかさにあふれ、衣服の細部までも繊細に描き込むルノワールによって、それぞれに命までも吹き込まれているようです。
★★★★★★★
ストックホルム国立美術館 蔵
<このコメントを書くにあたって参考にさせていただいた書籍>
◎西洋美術館
小学館 (1999-12-10出版)
◎印象派美術館
島田紀夫監修 小学館 (2004-12出版)
◎西洋美術史
高階秀爾監修 美術出版社 (2002-12-10出版)
◎西洋絵画史who’s who
美術出版社 (1996-05出版)