品の良い銀灰色と、頭部を飾るピンク色のリボンがアクセントとなった、流れるようなフォルムが美しい、すっきりとした作品です。モデルの人柄やつつましい雰囲気までも感じられ、簡潔な空間だからこその深みが醸し出されています。
この時期、ゴヤは重い病からの快復期にあり、成熟に向かう鮮やかな心境が静かに表現されているようです。
それまでのゴヤの人生は明るい光に満ちあふれていました。ある書簡で、
「近頃の僕は、皆が想像しているのとはまるで違った生活だ。大いに金を使うが、それに夢中で好きだからだ・・・。僕は国王たちに次いで知らない者がいないほど有名になり、もう他の仲間のように自分の才能を容易に値切ることはしない」
と書いているほど得意の絶頂だったと言って良かったのです。
それが、1972年の秋、アンダルシーアを旅行中、突然の病に倒れ、同時代のベートーヴェンと同じように、ゴヤの世界は無音の世界に変貌してしまいます。あるいは梅毒性のものだったという説もあり、一時は半身不随の状態で、頭痛、耳鳴り、けいれんが続き、失明の危機もあったのだそうです。
ゴヤ自身、一度は地獄を見たわけで、しかし、その経験が、後半生の真の創造神に愛されるゴヤを誕生させたのかも知れません。そうした状況の中での、端麗で清らかな作品なのです。
モデルの表情には、どこか憂いが感じられますが、結婚してカルピオ伯爵夫人となったラ・ソラーナ女侯爵リータ・バレネチェーアは、この絵の完成後、間もなくこの世を去ってしまいます。
★★★★★★★
パリ、 ルーヴル美術館蔵