画面のすみずみまで奇跡的な調和に支配され、ただ一言、「素晴らしい」としか表現しようのない作品です。まったくスキのない、完成の極致・・と言えるのではないでしょうか。
レオナルド・ダ・ヴィンチといえば、まず「モナ・リザ」でしょうが、この聖母子像の完璧な美しさを知らずに一生を終えてしまうなんて、あまりにも勿体ない気がします。
いかにも満足げなイエスと、そのイエスに母乳を与える至福の表情のマリア。こんなに美しいお母さんの顔を見て幼児期を過ごしたら、人生の最初に見る映像が私たちとは全然違うわけですから、どう考えても神の子になっちゃうしかないな・・・と、変に納得してしまいます。
マリアはわが子が全幅の信頼をもって自分を見つめているのを知っています。ですから、この子を守るのは自分しかいない・・・という自信と勇気に輝いて、このような満ち足りた表情をしているに違いありません。母親というのは、わが子との、このひとときの信頼関係を大切な思い出として、生涯の心の支えにしていけるのかも知れません。
それにしても、この抱き方はあまりにも不自然で、これではイエスが落っこちてしまいそうだと感じる人も多いと思います。ところが、この抱き方には、宗教的な顕示があるのです。マリアはわが子を慈しみつつも自分一人のものとして独占せず、人類の救い主として、人々に差し出す姿勢をすでにとっているのです。覚悟を決めたマリアだからこそ、このように穏やかで、気品と威厳に満ちているのです。
★★★★★★★
サンクト・ペテルブルク、 エルミタージュ美術館 蔵