夢のような背景を背にして微笑む、おだやかでやさしい、上質な陶器のような少女・・・。一見、誰もがそう感じる、アングルの初期の傑作の一つです。
ところが、アングルの師ダヴィッドは、
「奇妙な作品だ」
と非難しています。それはおそらく、アングルとはウマが合わなかったという理由だけではなく、右手の不自然なまでの長さのせいだと思います。普通、この長さはあり得ないでしょう。
冷静なアングルもデッサンを間違えたのか、というと、そうでもない気がします。他にも、有名な「グランド・オダリスク」など、椎骨を余分に加えて身長を引き伸ばしたんじゃないのか・・・といった非難を受けていますし、これだけ美しい少女を描くアングルは、実は「奇妙な」画家でもあったのです。
しかし、それは、物理的真実よりも絵画的真実を追究した、アングルならではの世界なのかも知れません。
この作品が描かれた同じ年、この清純な少女は、15年の短い一生を終えています。それを思うと、この少女が、アングルの絵画的真実の中で永遠に生き続けている不思議に打たれます。
★★★★★★★
パリ、 ルーヴル美術館蔵