強い海風に人々のドレスは翻弄され、子犬も思わず尻込みしながら可愛い声でほえ立てているようです。それでも女性たちは、興味津々で海を見詰めます。光も風もあまりに心地良くて、ずっとこうしていたいと感じているのかもしれません。
表題のロングブランチは、ニュージャージー州モンマス郡にある海辺の小都市です。現在ではニューヨークから車で3時間ほど走れば、美しいビーチにたどり着くことができます。身の回りの生活や自然を描くことを得意としたホーマーにとって、この海辺の光景は親しみやすい、心になじむものだったに違いありません。
外光派のウジェーヌ・ブーダンを髣髴とさせる画面ですが、ウィンスロー・ホーマー(1836-1910年)は、19世紀後半のアメリカン・リアリズムの最も代表的な画家の一人です。1867年にはパリにも滞在しており、ブーダンの作品にも接していたかもしれませんが、実は彼の場合、フランス絵画の影響は殆ど見受けられません。
ホーマー特有のまばゆい外光表現や鮮やかな色彩対比は独学だったのです。見たままをそのまま描く写実の態度が結果的に、印象派に先駆ける風景画家だったブーダン、さらには印象派絵画に近い画面を生み出す結果となったようです。
ウィンスロー・ホーマーは、19歳のときにボストンのリトグラファー、ジョン・バフォードに師事し、その後、挿絵画家としてニューヨークで活躍しました。1865年には29歳という異例の若さで国立デザイン・アカデミーの会員に選出されています。
ホーマーの初期の作品は非常にわかりやすく、彼が少年時代に過ごした雄大なアメリカの自然がテーマとなっていました。それは例えば、『ハックルベリー・フィンの冒険』や『トム・ソーヤの冒険』に出てくるような心躍る、みずみずしい世界だったのです。
芸術や文化に対して保守的で、風景画にも格調の高さや物語性を求めたイギリスあたりとは対照的に、アメリカは新興国ならではの寛容さと強い好奇心を持ち合わせていました。ホーマーのような自由で明るく喜びにあふれた自然描写が、新鮮な感動をもって受け入れられたのです。
★★★★★★★
マサチューセッツ州ボストン市、 ボストン美術館 蔵
<このコメントを書くにあたって参考にさせていただいた書籍>
◎西洋美術館
小学館 (1999-12-10出版)
◎西洋美術史(カラー版)
高階秀爾監修 美術出版社 (1990-05-20出版)
◎オックスフォ-ド西洋美術事典
佐々木英也著 講談社(1989-06出版)
◎印象派美術館
島田紀夫著 小学館 (2004-12 出版)