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「一束のアスパラガス」

エドワール・マネ (1880年)

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 静物画は、多くの画家たちにとって、手軽にモデルを調達でき、好きなように配置し、自由に描くことのできる魅力的なジャンルでした。天候が悪く、外出がままならない日の印象派の画家たちは、屋内で静物画を描くことが多かったと思われます。

 近代絵画の始まりにおいて、印象派の先駆者とされるエドワール・マネ(1832-83年)もまた、すぐれた静物画家でした。特に、体調を崩し、パリを離れて友人の別荘に滞在し、療養生活を送るようになったころから、静物画を描く機会が多くなっていったようです。
 マネのお気に入りの画題は、花や果物でした。18世紀フランスの画家シャルダンの静物画が再評価される中、その装飾性ゆえにブルジョワ階級の人々の間で人気となり、画家たちへの静物画の依頼も増えてきていたのです。
 しかし、ここでマネの選んだ画題は、アスパラガスでした。19世紀後半、アスパラガスはパリの北、セーヌ川沿いの農村アルジャントゥイユで栽培されていました。当時はまだ貴重な野菜でしたから、しばしば裕福な家庭の食卓にのぼったことで、マネの興味を誘ったのかもしれません。
 ことに、白いアスパラガスは、土寄せをして日を当てずに手をかけて育てたものです。軟らかく、胃にやさしいので人気がありました。上流家庭の台所で、ひときわ清潔な光を放っていたに違いありません。

 マネは、シャルル・エフリュシという人物に、この作品を800フランで売却したといいます。ところが、エフリュシ氏は、この絵がいたく気に入ったようで、マネに1,000フランを送りました。すると、マネは、「あのアスパラガスの束から1本抜けていました」というメッセージを添えて、新たに1本だけを描いた「アスパラガス」という作品を送り届けたのです。
 都会的で洗練されたセンスを身につけたマネらしい、素敵な逸話です。そして、みずみずしいアスパラガスたちは、マネの、まるで子供のように素直な美への愛情そのもののように美しく輝いているのです。 

★★★★★★★
ケルン(ドイツ)、 バルラフ=リヒャルツ美術館 蔵

 <このコメントを書くにあたって参考にさせていただいた書籍>
  ◎西洋美術館
       小学館 (1999-12-10出版)
  ◎印象派
       アンリ‐アレクシス・バーシュ著、桑名麻理訳  講談社 (1995-10-20出版)
  ◎印象派美術館
       島田紀夫著  小学館 (2004-12出版)
  ◎西洋美術史
       高階秀爾監修  美術出版社 (2002-12-10出版)
  ◎西洋絵画史who’s who
       美術出版社 (1996-05出版)
  

 



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