何て可愛い作品なのでしょう。あのアクの強いゴーギャンが、こんなに微笑ましい絵も描いていたなんて、チョット嬉しくなってしまいます。
白い大きなテーブルの上の鍋に三匹の子犬が頭を寄せて、画面手前には布の上の果物と器、そして中ほどにはグラスと果物が三つ、どこか象徴的に配されています。静物画というよりもゴーギャンの意図としては、もっと装飾的なものを目指した作品だったのかもしれません。
ゴーギャンは、しばしば遠近法を知らない画家と言われます。ここでも、手前、中央、後方が、それぞれ別の場所に視点を置いたように描かれ、陰影もほとんど施されていないのです。これは、浮世絵ふうの平面性や太めの輪郭線を取り入れた、画家なりの新たな絵画空間の試みだったと言えそうな気がします。
ちょうど四十歳を迎えたポール・ゴーギャン(1848-1903年)は、経済的な困窮からフランス南西部の小さな村ポン・タヴェンに住んでいましたが、すでに妻子とは長い別居生活に入っていました。したがって、必然的に、制作に専念するしかない時期でもありました。彼は村人たちの信仰心篤く、伝統を守る生活態度から、野生、素朴、幻想というモティーフを引き出していきましたが、一方、年若い画家ベルナールから、太い輪郭線、立体感を排した線と色面の一体化といった手法も学んでいきました。家庭人としては孤独でしたが、その後の画風を決定づける重要な時期でもあったのです。
ところで、この作品は子どものために描いたものだという説があります。子犬たちのユーモラスな表情は、エキセントリックで奔放な印象の強いゴーギャンの、意外なほどの優しい一面を見せてくれているような気がします。
★★★★★★★
ニューヨーク近代美術館 蔵
<このコメントを書くにあたって参考にさせていただいた書籍>
◎西洋美術館
小学館 (1999-12-10出版)
◎印象派美術館
島田紀夫著 小学館 (2004-12出版)
◎西洋美術史
高階秀爾監修 美術出版社 (2002-12-10出版)
◎西洋絵画史who’s who
美術出版社 (1996-05出版)