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「世界大戦」

ルネ・マグリット (1964年)

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 思わずギョッとするような作品です。
 もちろん、マグリットの絵にはいつも驚かされてばかりなのですが、やはり思わず「何、これ?」と言ってしまいます。
 滑稽だと笑ってしまえばそれで終わりなのですが、このさわやかな白とブルーに近い紫で彩られた美しい作品には、名状しがたいマグリットの企みが感じられます。

 幼いころの母の死に起因したと言われる顔の見えない女性、しかも何と言っても異様なのは、顔に張り付いた紫陽花の花です。
 しかし、これがマグリットのトラウマから来ているものだと断定するのは、考えてみればいつも冷静なマグリットに対して、すごく失礼なのじゃないか・・・という気がしてきました。
彼の非凡な作品たちを正しく見て理解するには、彼の文学的、思想的、哲学的要素を究明するべきなのかもしれません。
 マグリット自身も、「精神分析からは何も得るところがない。世界の神秘を呼び覚ます芸術作品にとっても、精神分析など何の役にもたたない。もっとも役立ったとして、それは、おそらく分析家が自分自身を分析した場合だろう」という見解を持っていました。そんなものは無意識に関する学問もどきにすぎない・・というところだったのでしょう。

 精神分析において、愛とは常に「パパとママと私」の間の問題ですが、マグリットにとっての愛とは熱狂を意味しました。その意味で、彼は心の底からシュルレアリストだったと言えます。
 シュルレアリスムを真の意味で悟ってしまったマグリットは、やはりどこか孤高で、他の画家とは一線を画した独自の未知を歩むしかなかったのかも知れません。

 この作品について彼は、「目に見える事物はすべて、ほかの事物を隠します。目に見えるものによって隠されているものをぜひぜひ見たいものです」と語っています。
 暗示的なこのマグリットの言葉のうちに、彼が熱心に読んだアリストテレスの「形而上学」やデカルトの「明晰判明の理念」にも、視覚の最上位性が定義されていることへの自信が見てとれるような気がします。

★★★★★★★
個人蔵



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