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「主教の庭から見たソールズベリー大聖堂」

ジョン・カンスタブル (1822-23年)

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 緑のアーチの向こうに、ゴシック建築の崇高な大聖堂がそびえ立ちます。そのすっきりとした美しさ、神々しいほどの姿に、画家は何度絵筆を止めて、溜め息をついたことでしょうか。この大聖堂を低い視点から見上げる構図は、画家の無垢な心そのもののように感じられます。
 建物自体をこれほど大きく取り上げるのは、カンスタブルには珍しいことです。それほどに、作品への思い入れが深いということなのでしょう。

 若いころからカンスタブルを後援し、励まし続けてきたジョン・フィッシャー(1748-1825年)は1803年にソールズベリー大聖堂の主教に就任しました。画家は、主教とその同名の甥を訪ねて、1811年以来、ウィルトシャーの地へ何度も訪れています。甥のジョン・フィッシャーは、カンスタブルの最も親しい、信頼のおける友人であり、結婚式のお膳立てをしてくれたのも彼だったといいます。
 この作品も、1820年に長期滞在した折に描いた油彩スケッチをもとにしており、それを気に入った主教が完成作品にするよう勧めたのです。そのため、同一構図の油彩ヴァージョンが、カナダ国立美術館、ハンティントン美術館、フィリップ・コレクション、メトロポリタン美術館と4カ所に収蔵されています。

 画面左下に描き込まれた二人の人物は、主教夫妻と言われています。仲むつまじい二人が大聖堂を見やる様子は、ちょっと出来すぎですが、実に美しくのどかな光景です。
 カンスタブルの作品には、たいてい点描のように人や動物が描き込まれますが、それは人間と自然の営みが調和を保つ幸福そのものの世界だったといえます。特筆すべきは、彼がそれを、神話などではなく、ごく身近な、緑なすイギリスの風景の中に描いたことです。まさに理想郷は、現実の私たちの世界にこそあると、画家は伝えたかったかのようです。
 ただ、当時のイギリスの農業従事者は、この絵のような暮らしばかりはしていられない状況にありました。この作品の前年、サフォース州では、農業の機械化に伴う雇用不安から、軍隊が介入するほどの長期的な騒乱事件が起こるなど、産業全体が変貌する時期にきていたのです。
 しかし、カンスタブルの描く風景には、そうした現実は微塵も感じられません。ソールズベリー大聖堂とサフォーク種の牛を取り合わせたのどかさ、幸福感を見るとき、彼は、当時の土地所有者たちにとっての理想郷を描いたとも言えるのです。

★★★★★★★
ロンドン、 ヴィクトリア&アルバート美術館蔵

 <このコメントを書くにあたって参考にさせていただいた書籍>
  ◎西洋美術館
        小学館 (1999-12-10出版)
  ◎週刊美術館 34― ターナー/コンスタブル
       小学館 (2000-10-10発行)
  ◎西洋美術史
       高階秀爾監修  美術出版社 (2002-12-10出版)
  ◎西洋絵画史who’s who
       美術出版社 (1996-05出版)



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