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「二人のヴェネツィア婦人」

ヴィットーレ・カルパッチョ (1510年ころ)

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 犬や鳥たちのいる部屋で、どこか物憂げに時を過ごしている二人の女性…。長いあいだ、彼女たちは高級娼婦であると思われてきましたが、現在では、画面左上の壺に描かれた紋章から、ヴェネツィア貴族のトレラ家の女性たちがモデルになっていると推定されています。当時の貴族生活のひとこまが描かれているのですが、彼女たちの不思議な静けさには独特の雰囲気があって、動物たちと戯れてはいても、どこか心ここにあらざらる感じは異世界の住人たちを見ているようでもあります。

 ルネサンスの時代には、もちろんまだ純粋な風俗画というものは確立していませんでしたが、宗教画や神話画のなかに、当時の人々の生活が少しずつ織り込まれるようになってきていました。そこには、宗教画をより身近なものとして扱うことで、神の世界と現実世界の距離を縮め、作品に対する親近感が増すという効果もあったかも知れません。また、15世紀から16世紀にかけて、人々の関心がより現実世界へ、そして人間へと大きく方向を変えてきた点も大きかったのでしょう。人々は絵画のなかに自分自身の姿を期待するようになっていくのです。そして絵画は、そうした人々の期待に応え、当時の風俗を積極的に取り入れていくようになります。
 こうした傾向は、フィレンツェで活躍したギルランダイオが代表的でしたが、ヴェネツィアにおいてもそうした要求は大きく、なかでもジェンティーレ・ベッリーニとその弟子カルパッチョは風俗表現を非常に得意とし、宗教主題を扱った作品であっても、そこには人々の日常がわかりやすく明確に反映したものとなっています。

 殊にカルパッチョの場合、とても繊細な色調の変化、空間を満たしていく柔らかい光の効果、そして動きの少ない人体表現などにより、現実を描きながらも、どこか夢幻的な雰囲気の漂う画面が特徴的です。この作品も、本来ならば華やかな笑い声に包まれていそうな情景設定でありながら、なぜかふと時が止まったような静けさに満ちています。
 手前の女性の手にすがりながらチラリとこちらを見る犬だけが、かろうじて鑑賞者を意識しているようですが、ふと彼の口から「これは白昼夢だよ」と言われてしまっているようで、その不思議な感覚と美しく落ち着いた光のなかで、私たちはかすかな眩暈を感じてしまうのです。

★★★★★★★
ヴェネツィア、 市立コッレール美術館 蔵



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