不思議な絵です。
窓の外に広がる美しい風景の一部がキャンバスに描かれ、ちょうど重ね合わされると、見ている側の私たちはひどく奇妙な、それでいて不思議と落ち着いた気分に満たされていきます。
音のない時間が部屋の中を通り過ぎてゆき、いつまでもいつまでもこの景色を眺めていたい・・・そんな気持ちで動けなくなってしまいそうです。
この作品は、マグリットの絵画の中でもおそらく一番有名なもので、景色と絵画という、現実とイリュージョンとの間の区別に疑問を投げかけているものです。
マグリットはこの作品について、
「部屋の内側から見た窓の前に、私は、その絵によって隠されている風景の部分と正確に同じものを再現した一枚の絵画を配した。かくして、絵の中の木は、背後に部屋の外の木を隠すことになった。絵を見る者にとって、それは、絵の中の部屋の内側であると同時に、外側の現実の風景でもある。二つの異なった空間に同時的に存在することは既視体験(デジャ・ヴュ)を感じる場合と同じく、過去と現在を同時に生きるようなものである」
と述べています。
シュルレアリスムの画家の中でも、ルネ・マグリットは今日、最も親しまれている画家の一人です。彼は、自分の目に見えるもの、現実世界というものにあくまでも執着し続けました。マグリットの精神はとても覚醒していて、しばしば謎を含んだ作品で見る者を混乱させますが、非常に直接的に私たちに語りかけてきてくれるという点で魅力的です。
マグリット曰く、「事物の客観的な描写」にだけ関心を寄せて描き続けた彼の、現実世界をより先入観なしに高次の新しい認識をもって提供した作品です。
★★★★★★★
個人蔵