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「凸面鏡の自画像」

パルミジアニーノ (1523-24年ころ)

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 前景には異世界の生き物のような巨大な手、背後の部屋も大きく傾き、世界全体がゆがむ中、顔だけが端正に整っています。これは、作者パルミジアニーノ(1503-40年)の自画像なのです。そして、おそらくは自画像史上、特筆すべき傑作と言って間違いないでしょう。

 1520年代、30年代のパルマは、このパルミジアニーノとコレッジオの存在によって、16世紀美術の重要な中心地の一つとなりました。極めて若いうちから頭角を現したパルミジアニーノは、初期マニエリスムを導入することで、尊敬するコレッジオと肩を並べる画家となったのです。
 そして、1524年、彼は恐らくはフィレンツェ経由でローマに赴いています。そこで、法王クレメンス7世の宮廷に身を置くことになるのですが、その際、自らの才能を示すべく、名刺がわりにこの自画像を持参したと言われています。そこには、弱冠20歳の画家の不遜なほどの自信と、あくなき上昇志向を見てとることができるように思われます。目鼻立ちの整った容姿を持つ画家は、自らをあえて凸面鏡中の不思議な空間に置くことで、全く新しい鮮やかな衝撃を人々に与えたのです。

 パルミジアニーノがこうした形の自画像を描こうと思い立ったのは、まさに床屋で見た凸面鏡がきっかけだったと言われています。着想を得た彼は、早速凸面にした板を使って克明な描写を行ったのです。凸面鏡の中で、画家は何を思っているのでしょう。その巨大で驚くほどしなやかな指は、画家の本心をみごとに隠してしまったように見えます。早い晩年を迎えた時、錬金術のとりことなっていたというパルミジアニーノの未来が、ふと見えるような気がする…と言ったら、余りにも見え透いた締めくくりでしょうか。

★★★★★★★
ウィーン美術史美術館 蔵

 <このコメントを書くにあたって参考にさせていただいた書籍>
  ◎名画への旅〈8〉/盛期ルネサンス〈2〉ヴェネツィアの宴
       森田義之 他著  講談社 (1992-12-15出版)
  ◎カラヴァッジョ鑑
       岡田温司編  (京都)人文書院 (2001-10-25出版)
  ◎教養としての名画―「モナ・リザ」の微笑はなぜ神秘的に見えるのか
       岡部昌幸著  青春出版社 (2004-09-15出版)
  ◎西洋絵画の主題物語〈1〉聖書編
       諸川春樹監修  美術出版社 (1997-03-05出版)
  ◎イタリア絵画
       ステファノ・ズッフィ編、宮下規久朗訳  日本経済新聞社 (2001/02出版)



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