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「受胎告知」

フラ・アンジェリコ (1430年ごろ)

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 「恵まれた者、喜びなさい。主はあなたとともにおられます。」
 神のみ使い、大天使ガブリエルのこの言葉に、ルカによる福音書の伝えるところによると、
「この言葉を聞いて、マリアは胸騒ぎがし、この挨拶はなんのことであろうかと思いまどった」
のです。
 ここに、恐れるな、マリア・・・に始まる有名な天使の告知が行われるのですが、フラ・アンジェリコの描くマリアは、畏れながらも静かに顔を上げ、
「私は主のはしためです。お言葉どおり、この身になりますように」
と、深く決意に満ちた受容で応えています。キリスト教はこの瞬間に、このマリアという一人の少女の受諾からその歴史の幕が開かれます。

 多くの画家たちが、それぞれの時代の神学的、美的解釈、また自らの内的発露から、さまざまな「受胎告知」を描いてきましたが、この作品はその中でも、その清らかさ、ひそやかさ、純粋さで、他とは一線を画した存在ではないでしょうか。
 柱廊玄関(ポティーコ)という当世風の舞台設定であるにもかかわらず、よけいな細部の描写がいっさい省かれ、大天使ガブリエルのみごとな美しい羽根と柔らかなピンクの衣装、そして、聖母になろうとするマリアの白と深い紺色の衣装が目にも爽やかで、この上なく清らかで無垢な印象を与える作品に仕上がっています。向かい合った二人の、真剣で純粋な顔も本当に美しくて、ああ、こんなふうに受胎告知はなされたのかも知れない・・・と深く納得してしまうのです。
 マリアの困惑、戸惑い、受容はもちろんですが、大天使ガブリエルにしてみても、神様からの大切な告知を携えての大きな仕事です、天使なりに内心はそうとう緊張していたのではないでしょうか。そんな二人の間に漂う張りつめた空気が、ピン・・と見る者にも伝わって、非常に清冽な大作となっていると思います。

 フラ・アンジェリコはドメニコ会のサン・マルコ修道院で生涯敬虔な生活を送り続けた修道僧画家で、とくに、「受胎告知」にはこだわりを見せ、何度も繰り返し、このテーマで描いています。その中でも、この作品は代表的なもので、彼の繊細な空間表現、光の描写がつつましく生かされ、神秘の世界の始まりを美しく、そしてまっすぐに見せてくれています。 

★★★★★★★
フィレンツェ サン・マルコ修道院蔵



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