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「受胎告知」

エル・グレコ (1570年以降)

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 くらくらと目眩を感じさせるような「受胎告知」です。この先、何度も取り組むテーマの一つであり、そのごく初期の作品なのですが、すでにもう、ここにはエル・グレコの世界が展開されています。
 じっと見ていると、画面の奥へ奥へと心身ともに吸い込まれてしまいそうな不思議な空間・・・。本来、静かで密やかなイメージの強いこのテーマを、グレコはめまいがしそうなほどの動的な作品に仕上げてしまっています。

 画面は隈なく繊細なタッチで処理されていて、細密画の下絵習作であるとの説もありますが、あくまでも独立した一作品としての威厳に満ちています。告知を受ける左側のマリアと、右側やや上方に浮かんだ大天使ガブリエルは、よく見ると、卵形の空間の内側に位置していて、それがとても劇的な感覚を見る者に抱かせるのです。マリアの驚きと困惑、大天使ガブリエルの揺れ動く心が緊迫した平衡を保ちながら、卵形の空間の内部を回転しているかのようにダイナミックに構成されています。

 考えてみれば、卵形空間を内蔵した構図法は、ルネサンスの多くの画家が用いていたものです。ですから、グレコ一人が特別な発明者というわけではないのですが、この絵を前にしたときの奇妙な精神のざわつきは何んだろう・・・と不思議です。
 マリアと大天使ガブリエルの揺れ動き、打ち震える心は、その脱出口を求め、中央に用意されている中庭の門から無限に広がる空の彼方へ飛び去ろうとしているのかも知れません。そして、それが見る者の救いとなっているような気がします。

★★★★★★★
マドリード、プラド美術館蔵



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