それぞれに強い内面性を感じさせる4人の人物は、左から福音記者のヨハネ、ペテロ、パウロ、マルコです。
「絵画芸術の目的は協会に仕え、キリストの受難を描くことと、人間の姿をその死後もとどめておくこと」
と言い切ったデューラーは、その晩年、注文によらず自らの発意でこの大作を描きました。二つに分かれているのは、元来、祭壇画の両翼として構成されたからだと言われていますが、定かではありません。
4人の人物の足許には「テモテ書」、「マルコ伝」その他新約聖書からの引用文が記されていて、その内容はいずれも、偽予言者や偽善家の出現を警告するものなのだそうです。それは、そのまま4人の使徒のメッセージでもあり、また、デューラーが支持する宗教改革家ルターの警告だったのかも知れません。
ルターは「芸術家デューラー」よりも「敬神の人デューラー」を高く評価していたと言われていますが、それはデューラー自身にも非常に嬉しいことだったと思います。そして、「この作品に4人のルターを、すなわち聖書の人、思想家、指導者、そして闘士という4人のルターを見る」と言われるほど、ルターへの傾倒を見せています。
崇高なパトス、気迫、高邁な理想、力強い精神性が感じられるこの作品はデューラー自身の心の発露であるとともに、時代の要請に応えるものでもあったと思います。
・・・という、時代的・思想的な背景を抜きにしても、一度見たら忘れられない、黒い背景から浮び上る4人の姿が印象的な作品です。
左右の、ヨハネとマルコが身につけている赤と白の衣装が持つ質感の、なんて美しいことでしょうか。2人が動くたびにクシャクシャ・・・っと音がしそうで、手を伸ばして触ってみたくなります。また、ヨハネとペテロの深く沈思する表情とパウロ、マルコの鋭く射るような視線の対照も強烈で、宗教が持つ二つの面をはっきりと提示している気がします。
ドイツ的で力強い、デューラー晩年の、誰もが認める最大傑作です。
★★★★★★★
ミュンヘン、 アルテ=ピナコテーク蔵