1886年、ゴッホは33歳のときにパリに出ます。都会でのさまざまな人間や芸術との出会いに刺激を受けて、オランダにいたころに彼を包んでいた鬱の状態がかなり緩和された時期の作品です。
すでに「ひまわり」をテーマに選んでいますが、アルルに移り住んでから次々に手がけた絢爛豪華なひまわりに比べると、だいぶ盛りを過ぎて元気のない状態で描かれています。
何やらウネウネと動いているような、燃えているような雰囲気は、後年の彼の糸杉を描いた作品などを彷彿とさせ、どこか不安な印象を受けます。色彩的には、オランダ時代にくらべるとずいぶん明るくなっています。それなのに落ち着かない印象を受けるのは、ゴッホ自身の精神状態のせいかも知れません。
せっかくパリに出て来てはみたものの、田舎から来たばかりのゴッホにとって、大都会の生活や人間関係は次第に煩わしいものとなってきていました。そして、
「僕に嫌気を起こさせる多くの画家たちに会わないで済むように、どこか南の方へ行きたい」
とまで言うようになっていたのです。急激な環境の変化は、やはりゴッホの鬱には刺激が強すぎたようです。そのための、疲れたひまわりなのかも知れません。
しかし、このひまわりたちからは、不思議な香りが立ちのぼって来ます。それは、神秘的と表現しても良いもののように思います。彼らは会話し、そして自らの存在を主張しています。疲れていても、手折られても、生きているんだ・・・というように。
すっぱりと切られた切り口が痛々しいひまわりですが、ゴッホは変色しかけた彼らにも、きちんと生命を与えています。
★★★★★★★
オッテルロー、 クレラー=ミュラー美術館蔵