ルノワールが本格的に「海辺の浴女」というテーマを描き始めたのが、イタリア旅行中の1881年頃でしたが、この作品は、その背景の岩や緑、そして海の色から察するに、1883年のガンジー島への旅行から戻ってすぐに制作されたものだと言われています。
ルノワールの裸婦というと、まずやたらと太っている・・・という印象があり、ともすれば中年のオバサン的なイメージを持つ向きもあるかも知れません。でも、この「坐る浴女」はたしかに豊満ですが、太陽の光の中で輝く、とても可愛らしい女性です。
ルノワールの友人たちによれば、このころから彼の画風の変化を意識したということですが、たしかにそれまでのボヤけたイメージを払拭するように、輪郭が明確で、演出も明らかです。色づかいも柔らかく、やさしくて、いかにもルノワールらしいのですが、どこかセザンヌに似た筆づかいで、彼の影響からか画面構成の厳しさ、単純化が促進されているようです。
ローマで古典絵画にふれて感激したルノワールは、シャルパンティエ夫人に宛てた手紙の中で、
「昔の人々の、あの偉大さと単純さを取り戻したい」
と述べていますが、この作品における古典的なテーマは彼の望みに一致しているように思われます。
モデルは妻となるアリーヌ・シャルゴであると思われますが、ルノワールはこの愛人について、友人たちにも話したことがなかったらしく、ひた隠しにしていた様子がうかがえます。それでも、彼女をモデルにして、ルノワール自身が望む「古典的」な「海辺の裸婦」というテーマを完成させていったのだと思うと、なんだかとても嬉しい気がします。
★★★★★★★
ケンブリッジ(米)、 フォッグ美術館蔵