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「夜のカフェ」

ヴィンセント・ヴァン・ゴッホ (1888年9月)

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 赤、緑、黄色の原色の使用と、やけに明るい画面は強烈で、脅迫的でさえあります。急速に視点が前面から奥へと引き込まれる遠近効果も切迫した印象で、落ち着きません。
 ゴッホが住んだ「黄色い家」の近くにあるオールナイトのカフェを描いたこの作品は、どこかムンクの「叫び」を思い出させます。

 人間が心の奥に持ち、できれば触れられたくないと思っている不安を無理につかみ出し、揺さぶられるようなイヤな感じがあり、だからこそ気になる作品です。ランプの非現実的な明るさは、アルルに移ってからのゴッホの躁病的精神状態によるものなのだと思いますが、画面中央のビリヤード台が落とす影がひどく大きくて、見る者を不安にさせます。
 ゴッホはこうした場所を嫌いだったのでしょうか。色彩の効果、赤と緑の使用によって人間の恐ろしい情念を表し、カフェは身を滅ぼしかねない所であることを表現しようと努めてでもいるようです。なんだかおせっかいな話ですが、それまで鬱屈してきたものが、アルルの強烈な外光によって突然解放されたゴッホの精神状態は、それでも聖職者を志した経験が一つの心の枷となって、そんな表現をせずにはいれないほどに高揚していたのかも知れません。

 また、彼はこの作品において、「日本的な晴れやかさ」を表現しようともしたようです。弟テオに宛てた手紙で、
「君が日本美術を勉強すれば、きっと今よりはるかに幸せになれると思う」
と書いています。ゴッホにとっての日本は、アルルの明るい風土と完全にイコールとなってしまっていたようです。

 しかし、天井から吊されたランプが同心円状の強烈な光を放つ真夜中の太陽のようで、ゴッホの危うげな情熱の行き先を暗示しているようにも思えてしまうのです。

★★★★★★★
ニューヘブン、 エール大学・アートギャラリー蔵



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