幼な児イエスをやわらかそうな両手で抱いているマリアは、濃い藍の闇から気品と温かさとつつましさをもって浮かび上がってきます。
聖母子像といえば、まずこの絵・・・という感じですが、何よりもマリアの美しさに見とれてしまいます。知的なおでこ、そっと伏せた瞼、すっと通った鼻筋、キュッと閉じた口もと、卵型の輪郭・・・。どこを取っても理想的な美しさで、さすがに「マドンナのラファエロ」…と納得してしまいます。
本当に、彼の描く女性はつくづく美しいと思います。美しい女性を、こんなに手放しで描けるなんて、ラファエロはけっこう育ちの良い、素直な人なんじゃないか、と思ってしまいますが、確かに、彼の父親はウルビーノの画家であり宮廷詩人だったジョヴァンニ・サンティでした。そして、父親や同郷の画家ティモテオ・ビーティに学んだのちペルジーノの工房に入門して、師の持つ静穏温雅な画風を吸収した彼には、美しいものを美しく描ける土台がしっかりと築かれていたのだと思います。
聖母と呼ぶには、まだ少女の雰囲気を持ったマリアですが、それがいっそう今後の運命と重ね合わせて、痛々しい思いに打たれます。できれば、このまま幸せな一生を送らせてあげたい・・・と思うのは、鑑賞者の感傷でしょうか。
★★★★★★★
フィレンツェ、 ウフィッツィ美術館蔵