はじめて出逢ったマグリットの作品は、おそらくこの「大家族」だったと思います。
翼を広げ、大空と融合してしまったような端正な鳥の姿には一点のくもりもなくて、自分の中に生じた感動をいったいどこへ持っていけばいいのか、と暫く途方に暮れたほどです。
ここには詩が存在し、そして神がいます。鳥のからだが雲と化してしまったのか、それとも壮大な雲が鳩のかたちに切り取られたのか・・・それは永遠の謎だろうと思います。しかし、ひとつ言えることは神々の融合、雲と鳥の当然の結果としての融合が確かにここに存在しているということなのです。
絵画という芸術の中にだけある特殊性・・・「魔法」ということにマグリットは惹かれ続けていました。
「magic」(魔法)という語はペルシア語に由来しますが、ドイツ語で「可能」を意味する「mogen」と同じ語源を持つのだそうです。「可能性」とは一つの形にしばられることなく、あらゆる形態、あらゆる内容に出入りできることをも十分に意味しますから、マグリットが絵画の中にあるその素敵な「可能性」を最大限に利用して作品を生み出したのは当然の結果だったのかも知れません。
マグリットの言葉に従えば、彼は「あらゆるもの、あらゆる人と同じように」世界の秘密のただ中に生きていたのです。
そして絵画を、神秘すなわち解明不可能なことと分かちがたく結びつける唯一の道具とし、あたりまえと思われている常識を絶対の神秘へとやすやすと引き上げて、いつもと変わらぬ静かな表情でいられる人だったのです。
マグリットの魔法で、私もこの鳥のように透明な存在になりたい・・・と、この作品を見るたびに誘惑を感じます。
★★★★★★★
個人蔵