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「天使たち」(「最後の審判」部分)

ピエトロ・カヴァリーニ (1293年)

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 天使の豊かな翼、そして微妙に重ねられた色彩のグラデーションの美しさに、鑑賞者たちの溜息が聞こえてきそうです。そして、この天使の生き生きと、まるで今にも動き出しそうな表情の、なんて可愛いらしく美しいことでしょうか。気品にあふれながら、それでいてとても親しみやすい、フィレンツェ派の彫刻家ギヴェルディがカヴァリーニの特質を「高貴さ」と評した、まさにその言葉どおりの天使の姿です。
 この作品は、ローマにあるサンタ・チェチリア・イン・トラステヴェレ聖堂に描かれた『最後の審判』の一部分です。作品じたいは非常に大規模なもので、一つの画面には収まりません。また、破損が多いことも、非常に残念なところです。

 天使たちに囲まれた審判者たるキリストの左右で、聖母マリアと洗礼者ヨハネが人類のためのとりなしをしています。そして、その横には、それぞれ6人ずつ使徒たちが並び、厳かに聞き入っています。
 彼らは、奥行きのさほどないところに横長に配置されてはいますが、印象として、とてもゆったりとした広がりのある空間の中に坐しています。そして、注目すべきなのは、身につけた衣の色彩の濃淡が、光線の具合で、微妙に変化を見せていることです。光と影の繊細な効果、布地の襞の下に隠された人体の膨らみや生命感が体温をもって伝わってくるのです。そして、顔立ちや表情にも、それぞれの人物の個性がとても豊かに表現されており、明らかに置物のような人物とは違う存在感を示しているのです。

 カヴァリーニは多くの大規模な壁画制作に携わった画家です。そして立体感を表現する透視図法的な表現を、すでに習熟していたと言っていいと思います。イタリア絵画の創始者と言われる巨匠ジョットよりも以前に、すでにこれだけの自由で柔らかい画面を実現していた画家がいたのだということには驚きを感じるとともに、ゴシック美術の奥深さを再認識させられます。

 やがて、1309年から後約70年間、教皇庁がローマから南フランスのアヴィニョンに移されます。そのため、ローマ絵画が光り輝いた時期は、1300年前後のほんの一時期だったかも知れません。しかし、そこには、カヴァリーニをはじめとする画家たちによって新しい流れが生み出され、そしてその次の世代であるジョットへと確かに受け継がれていくのです。
 そんな行く末をすでに感じているのでしょうか、美しくふくよかな天使は微笑みを浮かべ、未来をじっと見つめているようです。

★★★★★★★
ローマ、 サンタ・チェチリア・イン・トラステヴェレ聖堂 蔵



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