フェルメールが生きたデルフトの街の裏通りを描いた作品です。
「デルフトの眺望」は、街全体のひっそりとした風景を描写して有名ですが、この作品は、デルフトの真ん中にあるマルクト広場に面した宿屋「メヘレン」の2階から裏通りを見下ろして描かれています。
「メヘレン」はフェルメールの父が経営していた宿屋で、フェルメールはその2階に画室を持っていました。いつもと変わらない風景・・・日溜まりで一心に刺繍をする老女、歩道で遊ぶ子供たち、家の奥で掃除をする若い女性。でも、そこは、暖かい自然の光に包まれた平和と安らぎの国です。
フェルメールが、あえて「デルフトのフェルメール」と呼ばれるのにはわけがあります。当時のオランダにおいて、ファン・デ・メールやフェルメールの姓は一般的で、ヨハネス、ヨハンス、その縮約形のヤンの名もきわめてありふれていました。そのため、似たような名前の画家がたいへん多かったので、彼らと区別するために、あえて「デルフトのフェルメール」と呼ばれたのです。
それだけデルフトにおけるフェルメールの存在は大きかったと言えます。フェルメールは、心からこの地を愛していたのでしょう。この何気ない裏町の日常風景にも、永遠の光と時を与えてしまいました。
★★★★★★★
アムステルダム国立美術館蔵