力強く、一度見たら忘れられない作品です。
平原を逃げまどう群衆、そして馬や牛や馬車・・・。恐怖のための叫び声が、こちらにまで聞こえて来るようです。その時、雲の彼方に突然巨人が姿を現し、こぶし握りしめ、怒りと力を表現します。
もちろん、超現実的なイマージュの世界なのですが、この大胆な構図と力強さには、当時のゴヤの心情がそのまま描き出されているようです。
このころ、スペインは混沌の時代を迎え、危機に瀕していました。
1807年、ナポレオン軍がポルトガル侵攻を口実に、スペインに駐留します。そして、1808年の3月にアランフェスの反乱、4月にはフェルナンド7世が王位を剥奪され、5月にはマドリード市民が蜂起して、フランス軍との衝突は独立戦争へと発展します。
ゴヤは、こうした祖国の危機を救う神のごとき存在・・・つまり、独裁者ナポレオンなどではない、真の巨人の出現を願ったのではなかったでしょうか。
「見よ!・・・蒼ざめた巨人が立ち上がるのを・・・。その姿は恐るべき形相を帯び、燃えるようなその瞳は悲しみの光に満ちている」と、当時の民衆は歌いました。
そして、ゴヤもまた、祖国の守護神たる巨人の、力強い出現を夢想し、この作品を描いたに違いありません。
★★★★★★★
マドリード、 プラド美術館蔵