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「巻雲の習作」

ジョン・カンスタブル (1822年)

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 なんて美しい雲だ、まるで西風のゼフュロスに吹きつけられているようじゃないか……と、画家が言ったかどうかはわかりませんが、ジョン・カンスタブル(1776-1837年)はこのころから、「スカイイング」と称して空の習作に取り組むようになりました。
 「空はすべてを支配する」と画家は語っています。どこまでも続く空、流れる雲、それは決して彼を飽きさせることはありませんでした。カンスタブルの自然観察の情熱は、とどまるところを知らなかったのです。

 1816年に結婚したカンスタブルは、ロンドンに腰を据えました。そして1819年、病弱な妻のために北部のハムステッドに家を借り、変化を続ける空の様子を描くようになったのです。当時はまだ小村だったハムステッドは、広野の風景とともに画家の琴線に触れたようです。
 特に1821年から翌年にかけて、カンスタブルは約100点の雲の習作を描いています。どれも1時間ほどの短時間で仕上げたものばかりで、日付、天候、風向きなどが作品の裏にメモされていました。カンスタブルの正確な眼は刻々と変わる空の色、雲の動きを素早くとらえ、見事な筆致で描きとめていったのです。
 この時代、絵画は茶色の色調で描くのが普通と思われていました。ところが、カンスタブルは自然の緑を描くのに茶色は必要ないという考えの持ち主でした。そして、この空の色の、何というみずみずしさでしょう。光にあふれた空はさまざまに表情を変えて、生き生きと踊っているようです。それは、聡明な妻を得、次々に子供にも恵まれて心身ともに充実した、画家の精神そのもののような闊達な明るさに満ちているのです。

 ところで、現代の私たちから見ると、みずみずしい自然の色彩を表現しようとしたこの美しい作品も、当時の人々には画家本人も含めて、完成作品とは見なされませんでした。もちろん習作ですし、それでなくてもカンスタブルの素早い筆の動きは、しばしば絵自体が仕上がっていないと批判されていたのです。
 しかし、一連の雲の習作は、印象派絵画を思わせる新鮮な美しさを備えています。十分に観賞に耐え得る風景表現であり、事実、こうした習作をこそ高く評価している人々も多いのです。カンスタブルの全く新しい試みは、印象派の画家たちが出現する30年も前に、すでに実行されていたのです。 

★★★★★★★
ロンドン、 ヴィクトリア&アルバート美術館蔵

 <このコメントを書くにあたって参考にさせていただいた書籍>
  ◎西洋美術館
        小学館 (1999-12-10出版)
  ◎週刊美術館 34― ターナー/コンスタブル
       小学館 (2000-10-10発行)
  ◎西洋美術史
       高階秀爾監修  美術出版社 (2002-12-10出版)
  ◎西洋絵画史who’s who
       美術出版社 (1996-05出版)



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