爽やかな風、小川の輝き、木々の緑の美しさ….。画面の中の人々も含めたすべてがなごやかに安らぎ、カンスタブルの描く風景画には、いつもみずみずしい大気と喜びがあふれているのです。
19世紀以前、風景画家が戸外で油彩を使って描くという習慣はありませんでした。野外では素描だけをしておいて、仕上げは室内でするのが普通だったのです。そんな中、初めて野外で風景を本格的に描き始めた画家たちがいました。
当時、風景画家として成功する道は、過去の巨匠の作品を模写することと考えられていました。しかし、カンスタブルは早い時期から戸外で描くことに励んだのです。風景をじかに肌で感じ、観察することによって得られる感覚を何よりも愛し、大切にしたかったからです。
そのころのイギリスで最も評価されていた風景画は、クロード・ロランに代表されるような、古典文学や聖書からインスピレーションを受けたイタリア的景観でした。しかし、カンスタブルの描く風景は、彼自身の慣れ親しんだ故郷のサフォーク州をはじめ、一時住んだロンドン近郊のハムステッドなどの親しみ深いイギリスの風景だったのです。もちろん、こうした作品が世に認められるのには時間もかかったわけですが、カンスタブルの描いた穏やかな田園風景は、長い間ヨーロッパの人々の心を支配し続けた古典への呪縛から、少しずつ解き放たれることをも意味していたと思われます。
カンスタブルは、しばしば印象派の先駆として語られることはありましたが、イメージとしては弱く、それ以上の評価が与えられることが比較的少ない画家だったように思います。しかし、彼はただひたすらに故郷の風景を…自らを画家として育ててくれた風景を愛し描くこと以外、多くを望まない人ではなかったか、という気がするのです。
そして、そんな彼の名をとって、故郷のサフォーク州イースト・バーゴルド一帯は、今でもカンスタブル・カントリーと呼ばれ、人々に親しまれているのです。
★★★★★★★
ロンドン、 ナショナルギャラリー蔵